第17話 魔力矢

「とにかくまだウォーコボルト達は来てない。今のうちに魔石を……」


 俺はダースウルフェンの下に駆け寄るとその身体に触れて『捧げない』を選択した。

 ごろんと落ちた魔石はおそらくサイズ『大』。

 多分クロが言いかけていたのは特殊な矢で魔石から魔力を吸収して溢れさせる方法があるという情報。


 つまりはこの魔石を変換吸収の矢で打ち砕けば矢を具現化出来るようになる、はず。


「正解かどうかは分からんが、矢の残りは多くない。節約も兼ねて今の内に――」



 ――バキ



 魔石を射ろうと矢に手を掛けると背後で木の折れる音が響いた。

 それと同時に体は軽く飛ばされ、俺は地面に手をつく。


 コボルトの攻撃? だがここまでは距離がある。


「いってえ、一体何が……」


 攻撃の正体を確かめるべく振り返ると、そこには俺と同じように地面に手をつくウォーコボルト。

 色が何故か金色に変化している事も気になるが……。まさかこいつこの一瞬で詰め寄ってきたのか?



「「ぐおおおおおおっ!!」」

「……いや、そうじゃない。こいつは弾として飛ばされたに過ぎない」


 地面に手をつくウォーコボルトの背後に見えたのは、ウォーコボルトを抱え大声で鳴くよりでかいモンスター。しかもそれが2匹。

 金冠を被り堂々とした出で立ちと、甲冑を身に纏っているそのモンスター2匹の名前は確か……『ロードコボルト』


「こんな奴らここに居ていい存在じゃない」


 『ロードコボルト』は80階層のボス。

 通常ゴールドランク20人、プラチナランクなら10人は必要と言われているモンスターだ。

 味方を駒の様に扱う残虐性とウォーコボルトと同様の高い耐久力。

 武器の扱いが更に長け、報告だと武器を――


「「ぐおおおおおおおおおっ!!」」


 2匹は再び近くにいたウォーコボルトをこっちに向かって投げ飛ばす。

 俺はそれを喰らわないように弓を抱えながらバックステップを数回繰り返す。

 飛距離はそこまででもないのかそれで躱す事は容易。

 やつらの狙いはそれによる直接ダメージではなく、俺の矢を自分たちに通さない為の壁を出来るだけ前線に置く事なのかもしれない。


「それにしてもなんでこんな奴らが……。まさか、そういう事か?」


 今まで身体能力の強化のみだったバフスキルだけでなく、金色の肌を持つダースウルフェンは命を犠牲に対象を『進化』させる事が出来るのだろう。


「害悪過ぎるだろ、そんなの」


 俺は舌打ちをすると更に距離をとる。

 今の内に弓を弾きたいところだが、いくら背中の筒から矢を取り出そうとしても無理。

 実はさっきの衝突で、準備していた矢は筒ごと破壊されてしまったのだ。


「矢は手元にある1本だけ。ならそれを狙うしかないだろ」


 俺は地面に落ちた魔石を狙って弓を引いた。

 狙いを低くしたことが良かったのか、矢はターゲットを周りのウォーコボルト達に移さず、真っ直ぐに進む。



 ――パリン



 矢が命中すると魔石が割れ、ガラスに近い音が鳴った。

 変換吸収の矢の効果で魔石の破片は赤いオーラとなり俺の元へ。

 身体の奥がモンスターの肉片を吸収した時とは比べ物にならない程熱く、汗が流れる。


『――条件を満たしました。スキル:魔力矢精製を取得しました。形状を想像する事で魔力1で1本の矢を精製。消費魔力を口頭又は心で念じた後に矢を精製させようとした場合、その分の矢を自動生成、自動装填』

「じゃあ魔力6消費」


 アナウンスの説明に従い消費魔力を決めると、今度は矢をイメージして構える。


「おお……」


 すると俺の手元には羽以外なんの装飾もされていない真っ白な矢がいつの間にか握られていた。

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