第16話 バフ狼
「グルルルルル……」
2階層。
今まで通りならここからスライムはいなくなり、その代わりにコボルトの出現数が増え、黒い毛とバフスキルが特徴的なダースウルフェンが現れ始める階層。
ダースウルフェンは出現確率が低く殆ど見かける事はないが、その戦闘能力はコボルト以上。初心者の探索者はダースウルフェンに遭遇したらすぐに撤退が原則。
初心者でなくてもダースウルフェンはバフスキルを持つ害悪モンスターであると認知されている為、それを回避する為に出現層である2階層から6階層で狩りを行う探索者は少ない。
かく言う俺もそれが理由でそれ以降の階層にいるアルミラージを狩って生活資金を稼いでいた。
そんなこんなで7階層から9階層は探索者達に『安息地』なんて言われ方もしていて、俺を含む『安息地』で狩りをする探索者は臆病認定を受け虐げられやすい傾向にあるのだ。
「まぁ俺の場合は一応初期メンバーっていう肩書がある分、無理にマウントをとってこようとする奴は限られていたけど――」
「――わぉぉぉん……」
「いるな。間違いなく」
ダンジョンの奥から微かにだが遠吠えが聞こえてきた。
コボルトとはトーンの高さが違う為聞き訳は簡単。
「バフはダンジョン全体が範囲。まずはダースウルフェンを処理しないと……」
俺は弓を構えて通路を走った。
ダースウルフェンのバフスキルは今の遠吠えを聞いたモンスターが対象とされていて、重ね掛けもされるらしい。
1回のバフ効果は大した事がないという研究結果があるが、それもほっとけばとんでもない効果に化ける。
だからダースウルフェンの存在が確認されると、低階層にも拘わらずランクの高い探索者が探索者窓口から依頼を受けて迅速に処理をするのが一般的。
まさかその役目を人知れず自分が担うなんて全く思わなかった。
「いた」
「グルルル……」
通路の先で蹲るダースウルフェン。
威嚇するだけで一向に逃げようとしないその様子を見るに、バフ効果は発動する事で何かしらの反動を受けるようだ。
俺はそんなダースウルフェンに弓を向ける。
しかし……
――ボコ
「ぐがぁあああああああああ!!」
唐突に盛り上がった地中から出てきたのはコボルト、いや、これはウォーコボルト。
金色の管はスライムの居る1階層だけでなく、既に各階層に仕掛けをしているってわけらしい。
「邪魔だ――」
「がぐおおおおおっ!!」
「なっ!?」
弓を引こうとすると背後からけたたましい鳴き声と攻撃が襲いかかってきた。
紙一重でそれを避け、振り返るとウォーコボルトが更にもう1匹。
そしてそれに続いて金色の犬歯を持つコボルトが数匹各ウォーコボルトの背後少し離れたところに現れ始める。
「完全に挟み込まれたか」
ウォーコボルトは根性持ち。しかも離れた所に復活効果要員の金色犬歯のコボルト達。
どうする。根性持ちだからウォーコボルトは1発耐えて直ぐに反撃してくる。相手を殺すよりも、ここを抜けて挟み撃ちの状況を回避する手立てが必要だが……
「相手の動きを止める……ならこうするしかない」
――パンッ!
俺はウォーコボルトに向けていた弓を敢えて地面に向けて矢を放った。
すると衝撃波が辺りに広がり、それによってウォーコボルト達が尻もちをついた。
その間に俺はモンスターだらけの通路から隙間を見つけて走り始め、とにかく正面に見えるダースウルフェンに弓を向けた。
様子をじっと窺っていたダースウルフェンは、諦めた様にすっと蹲っていた体を伸ばす。
そして……
「う゛ぁおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
大口を開けて絶叫に近い遠吠えをし、そっとその顔のまま倒れた。
「命と引き換えにバフを? だがダースウルフェンは弱めのバフしか――」
その行動に疑問符を浮かべると、全身にびっしりと生え、羊化の様にふさふさとしていた真っ黒い毛がダースウルフェンの身体から一斉に抜け落ちた。
「……なるほど、お前も金色の個体だったってわけか」
金色に光るダースウルフェンの金色の地肌。
分裂効果を持っていた金色スライムと同様に、こいつにも通常個体とは違う何かがあるっていう事らしい。
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