第15話 私は
「魔石頂戴……」
誰の声かは分からないが、復活の為に魔石をねだっているのは間違いない。
そもそも魔石は集めないといけないだろうと考えていたから、それに従わない理由もなく、俺は『ウォーコボルト』がドロップさせた魔石に触れた。
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・ウォーコボルトの魔石(極大)
以下の選択肢から1つ触れてください。
■捧げる
■捧げない
(捧げない場合、吸収の時間にランダムで対象となる。これはダンジョン内のみ適用される)
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「そりゃあ向こうからすればそうしたいよな」
拾得済み魔石が吸収対象である事が確定。
移動に時間が掛かる少し深めの層で大規模な魔石集めをしていたギルドがあったはずだが……あの人達は特に阿鼻叫喚だろう。
俺はもうその覚悟をしていたから、『捧げる』なんていう便利なコマンドが表示されるという事実に嬉しさが溢れる一方なんだがな。
「――さらば200万の極大魔石」
少しだけ勿体なさを感じながら『捧げる』をタップすると、極大魔石はさっき吸収された魔石と同じ様にドロッと溶けて消えた。
「……あっけないというか、不完全燃焼感があるというか、もうちょっとゲームっぽく綺麗なエフェクトがあってくれたらなぁ――」
『魔力、余分ない。話も前よりちょっと、だけ。ちょっとずつ……。完全に解ければ、もっと……』
またあの声が頭の中に響いた。
たどたどしい話し方だが、集めた魔力を使って復活するのがこの声の主だって事はなんとなく察する事が出来た。
そういえばダンジョンを攻略すると願いが1つ叶うなんていう噂が流れていた時があったが、その情報源は『あの人』の、『ダンジョンで聞いた』という言葉だった。
当時殆んどの人が『あの人』の事を信用はしていたが、その『ダンジョンで聞いた』という所は信用出来ず、危ない薬に手を出してそんな幻聴が聞こえてしまった、という説がちらほらと沸いていたものだ。
「俺ももしかしてって思ってたけど……。『あの人』もこの声を聞いたのか?」
『あの人……分からない。でも、ほんの少し話し掛ける事、出来た』
俺の疑問に答えてくれる『誰か』。
この際だから他の事も色々聞いてみるか。
「俺達にも事情があって魔石をこれからもあんたに捧げようと思っている。結果的に協力してやるんだ、あんたが誰かくらい教えてもらってもいいか?」
『私はクロ。このダンジョン、の……。あれ? なん、だっけ。私、分からない……』
まるで記憶喪失の人の反応。
といってもドラマとか映画の知識でしかないが。
『多分、復活まだ、だから……。ごめん』
「いや謝らなくてもいい。俺が急に質問したのもよくなかったよ」
『私、自分の事、殆んど、分からない。でもモンスターの事、人間の事、ちょっと分かる。さっきの魔石の、モンスター。スキル、根性。1撃じゃ死なない』
よくゲームアプリなんかでバランス調整用に実装されるアレか……。
確信した。『ウォーコボルト』は害悪モンスターだ。
「情報ありがとう。これからも知りたい事があったら聞いてもいいか?」
『うん。でも、話す、限界ある。無理な時も、ある。そうだ、その弓、あなた弓使い。弓使いは、80レベル越えてから、矢を具現化出来る。それには魔力溢れさせる必要が……。確か、魔石を特殊な、うっ……』
「大丈夫か?」
『自分の記憶に、引っ掛かる事、だったみたい。急に痛みが――』
「お、おい!」
クロの声は中途半端な所で途絶えてしまった。
これはさっき言っていた限界の所為か?それとも痛みの……。
「とにかくいい情報は得られたな。魔石を特殊な矢で……次の階層で試してみるとするか。って俺も痛みが」
俺は気休め程度だと思いながらも傷口に唾を付けると、次の階層へ脚を運ばせた。
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