第14話 『ウォーコボルト』

「ぐおあっ!」


 探索者全体に周知されている『ウォーコボルト』の特徴は、その巨体からは想像出来ない敏捷性と耐久力……それと武器を扱うという点。


 ボスとして20階層にいる『ウォーコボルト』は探索者の落とした、或いは探索者から奪った武器を操り、その武器の種類によって攻略難易度が大幅に変化するらしい。


 今は産まれたばかりで剣や槍等のそれらしい武器は持っていないが、その辺に落ちている小石を広い手の中でじゃらじゃらと音を立てている。


 石の礫程度でも『ウォーコボルト』の発達した腕の筋肉から放たれれば脅威。

 俺はそれを放たれる前に弓を引いて後ろに下がる。


 『ウォーコボルト』はそんな俺の動きを見て、矢に躊躇する事なく突っ込んでくる。

 『ウォーコボルト』からすれば石の礫は命中不安があり、通常のコボルトが得意とするような接近戦に持ち込みたいのだろう。

 だが俺の矢は追尾効果を持っている。そう簡単には近づかせない。


「ぐお!?」


 まさか避けた筈の矢が自分を追ってくるとは思っていなかったのだろう、『ウォーコボルト』は顔に似合わない声を上げると慌てた様子で矢を撒こうとその辺を動き回り始めた。


 俺はそんな『ウォーコボルト』に遠慮などするわけもなく、2射目を放つ。

 1番最悪なのは、その場から離れようと俺に向かってくる事。それをさせない為にも追撃は必須。


 ――じゃら


 新たに放たれた矢に気付いた『ウォーコボルト』は矢を避けながら握っていた小石を遂に投げ始める。


 だが案の定その精度は低く、しかも矢に常に追われているという状況があってか、勢いもない。


 俺の元まで飛んでは来るものの、避けるのは簡単。

 ただ数は多く、たまたま2射目の矢じりがそれに当たり会心のエフェクトを見せる。

 当たったのが石という事もあってか広がる衝撃波に固定ダメージ効果は乗らないようで、『ウォーコボルト』は 身体を仰け反らせ尻餅を着くだけ。

 しかしそのあと1射目と2射目が合わせて命中。

 『ウォーコボルト』の右手右脚が弾け飛んだ。


 ここで分かった事だが必中効果は対象に当たる前に他の物に当たっても矢自体が機能出来る状態なら追尾を続行してくれるらしい。

 『必中会心』、恐ろしいスキルだ。


「ぐ、お……」


 『ウォーコボルト』身体は全体ではなく部位が弾け飛んだだけ。流石にHPは削りきって倒れてくれたが、防御力は中々だった。

 敵に応じて変換吸収の矢と通常矢を上手く使い分けないと――


「がぐぐおぉっ!」


 『ウォーコボルト』が倒れた事に安堵していると金色犬歯のコボルトがその死体に触れようと走り出した。


 右手右脚を失った『ウォーコボルト』なんてもう怖くはないが、念には念を入れてそれを阻む為に弓を引こうと矢を装填する。


 すると


「がぐあぁ!」


 金色犬歯のコボルトの内1匹が自ら囮役を買って突っ込んできた。

 普段そんな仲間意識を見せないコボルトだが、金色に変化するとそういった所にも影響が出るのかもしれない。

 俺は献身的な金色犬歯のコボルトに一瞬攻撃を躊躇いそうになったが、相手がモンスターだと割りきって弓を引いた。


 矢は金色犬歯のコボルトに当たり、衝撃波が広がる。

 今度はその効果も発生しているはず、なのだが


「ぐおぉぉおおおお!!」


 復活し『金色犬歯のウォーコボルト』となったそれは一瞬ふらっとして見せた後に直ぐ様脚に力を込めて俺の元まで跳んできた。


「まずいっ」


 弓を引く時間がなく、すかさず身体を反らしたが、『ウォーコボルト』の爪が脇腹を掠めてしまった。

 致命傷ではないが、多少の出血はある。


「くっ……。お返しだ」


 ――パンッ!


 それでもなんとか弓を引き、『ウォーコボルト』の額に矢を当てるとそれを弾き飛ばした。


「流石にもう起き上がってこないよな? ……。なら、魔石に変えさせてもらうぞ」


 俺は『ウォーコボルト』の身体に触れ魔石に変えた。

 これでようやく一安心だ。


 それにしてもあの衝撃波で倒れなかったのは意外――


『魔石、ちょ、だい……』


 サイズからして極大であろうコボルトの魔石を拾い上げようとすると、俺の頭にアナウンスと同じ声だが明らかに様子のおかしい、アナウンスとは呼べないものが流れた。

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