第7話 金色スライム
「近いのが仇になるなんて思いもしないんだよなぁ」
ズキズキと痛む頭をを抑えながら徒歩で移動する事10分。
高く聳え立つ探索者ビルの周りにはマスコミの人達が群れていて中に入る事も難しい状況。
この人達は中が大変な状況になってるって気付いてんのかな?
「あ……。探索者の方ですよね? 今ビルは一時的に封鎖してますので裏口を開放していますのでそちらからお願いします。メールにも記載の通りモンスターが数匹ダンジョン入り口から現れて……こんな状況という事もあって建物内には探索者の方々が2、3人。探索者窓口からも加勢を出してはいますが……。お忙しいところ申し訳ありませんが直ぐに加勢をお願い致します」
人だかりに紛れて探索者が駆けつけるのを待っていた探索者窓口の女性は俺の姿を見るなり、通常搬入口として利用されている場所へ俺を案内してくれる。
「探索者の方々の1人1人のお顔を覚えてはいないんですけど……。こういう偶然もあるものなんですね」
なんで俺の顔を見て気付いてくれたのかと思ったが、どうやら昨日最終的な買取を担当してくれた女性のようだ。
「不幸中の幸いってやつですかね。それで今はどんな状況ですか? 既に何人か戦っているなら安心なのでは?」
「それが攻撃力に関しては大したことのないモンスター達みたいなんですけど、個体によってはなかなかダメージが入らなくて」
「ダメージが入らない?」
「はい。金色の体を有していて、しかももう少しで倒せると思えば死んだ通常の個体にその金色の身体が引き継がれて蘇生。その際にHPも回復していて……非常に質が悪いモンスター達です。ダンジョンに起きている異変の1つとして昨日情報を頂いていた内容ではあるんですけど、あんなに硬いなんて思ってもみなかったです」
昨日戦った『金角のアルミラージ』みたいな奴らが溢れてるって事か、しかも全身が金色の。
それは確かに面倒くさい。だが……あんな高い経験値のモンスターが複数いるのか。
「この扉の先に更にダンジョンの入り口があるフロアに繋がる扉があります。残念ながら私はレベルも低く戦えません。申し訳ありませんが案内出来るのはここまでとさせてください」
「分かりました。案内ありがとうございます」
俺は女性に会釈をすると、扉を開き小走りで急いだ。
進めば進む程戦闘の音、それにモンスターの鳴き声が聞こえてくる。
この先は間違いなく戦場。緊張の所為か2日酔いの頭痛も気にならない。
――弓を構えて矢を装填。
俺は鼓動を高鳴らせてそおっと正面の扉を開く。
「『業火の雨』」
降り注ぐ無数の火球。
それは一箇所に向かって落ち、局部的に火の海を作る。
「……凄いな」
「あれでも殆どダメージはないよ。残念だけど。すまないが俺達は撤退させてもらう。せめてあれよりレベルの高い探索者じゃないともう役に立たない……くそっ。まさか探索者が窓口の人に頼って逃げる事になるなんて」
その様子を眺めていると傷を負った3人の探索者が足を引きずりながら横切っていった。
あれでダメージが無い? 窓口の人?
「きゅううぅぅぅぅう」
「ちっ! 防御力だけじゃなくて相性も悪いな」
火の海の中に居たのは5匹の金色スライム。金色スライムは大口を開けて火を吸い込み始めるとあっという間にそれを飲み込んでしまった。
元々スライムに対して炎系の攻撃は効果が薄いとされていたが、そういった耐性部分も強化されてしまっているらしい。
「こうなると肉弾戦しかないけど……。もってよ私の脚」
1人の女性が痛みを耐えるような表情で金色スライム達に突っ込んでいく。その顔は見覚えがある。昨日査定をしてくれた女性、確か名前は江崎さんだったか?
「あーもう! 本当に硬いわね!」
武器はレイピア。
火を纏っているのは彼女のスキルなのだろう。
凄まじい剣戟だが金色スライムはそれを軽々と受け止め、江崎さんの周りを取り囲む。
そして、1匹のスライムが大きく口を開き江崎さんまで飲もうとする。
「まずいっ!」
見事な戦いぶりに息を飲んでいたが流石にまずいと思い、俺は慌てて弓を引いた。
念には念でステータスポイントは振り分け済みだが、あの攻撃でダメージが殆どないのなら俺の攻撃も――
「きゅっ!」
「え?」
「……効いた」
矢はいつもの様に会心の一撃のエフェクトを発現させて炸裂。
江崎さんの身体を飲もうとした金色スライムは俺の予想とは異なって気持ちいいくらいに爆散したのだった。
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