第8話 爽快
『レベルが35から38に上がりました』
金色スライムを倒した事でまたレベルが上がる。
本来の通常個体から得られる経験値が算出されているのか、『ボーパルバニー』の時程レベルは上がらないが、それでもこんな簡単に3レベルもアップ出来るのは気が狂ってくる。
「会心の一撃……。ふふ、硬いモンスターには確かにそれが一番か。適材適所って事なら私は業務と同じでサポートに回らせて貰うよ。あんたは第2射の準備をしな!」
江崎さんはレイピアをしまうと、先程よりも小さく弱々しい火球を掌から発射しながら金色スライムの近くを走り回り、金色スライム達を俺のいる場所から引き離してくれる。
弓使いは防御力が低い事でも有名だから万が一を考慮してデコイ役を買って出てくれたらしい。
俺の攻撃はあくまで単体攻撃。
射撃中を他の個体に襲われたらたまったものじゃない為、これは非常に助かる。
「ただ、動かれると狙いが……。江崎さんが的になる可能性もあるから慎重に――」
「上に構えろ!」
その言葉と同時に江崎さんは追ってきている金色スライム達の元にわざと突っ込み 一匹を両腕で捕まえた。
そしてそれを高く宙に放る。
最高のお膳立てに俺が悠々と弓を引くと再び金色スライムは爆散。
蘇生の隙すらも与えない程木っ端微塵。
この爽快感は例えようがないな。
「痛っ! ……あ、あと3匹!」
江崎さんは一瞬右足を引きずるような素振りを見せ、スライムの突進攻撃が腕を掠めてしまう。
硬度が高いだけあって、皮膚を裂くくらいには攻撃力があるらしく江崎さんの腕には切り傷が。
それでも気迫で金色スライムを掴むと再び放り投げてくれ、俺はそれを射る。
残りは2匹。レベルは41に。
「くっ、もう脚が……」
「きゅっ!」
苦しそうな顔で江崎さんが脚を止めると、金色スライムは何故か江崎さんではなく俺に視線を移した。
高速で近寄る金色スライム。江崎さんが慌てて火球を打ち出すが金色スライムはもう止まらない。
俺は急いで弓を引いたが、仕留められたのは1匹だけ。
取り逃がした1匹は俺の懐に潜り込んでいる。
身体を伸ばして突進の準備を整え終わった金色スライムはそのまま俺の腹目掛けて跳ねる。
「ぐっ!」
例えるならデッドボールの数倍の痛み。
意識が飛ばないくらいの痛みの所為で交通事故の様に痛みを忘れるなんて事もない。
当たり所が良かったのか、骨が折れる様な音はしなかったが、絶対に痣は出来てる。
小さい身体にそこそこ吹っ飛ばされた俺はそのまま地面に落ち、金色スライムはそんな俺に追撃しようと再び身体を引っ張り始める。
「間に合、え……」
急いで矢を装填しようとするが、弓を引くよりも金色スライムが飛び出す方が速い。
もう1度これを喰らったら今度こそ意識は飛び、当たり所が悪ければ――
「『空間爆発』」
最悪の事態になった時の自分の姿が頭を過ぎると、唐突に俺の正面で小爆発が起きた。
爆発によってダメージを負った金色スライムは突進の勢いを殺し、1度様子を伺う為か反対方向に身体の舵を切る。
「飯村君!! そいつは私が処理するから離れ――」
「ナイスだ朱音」
俺は朱音が言葉を言い切る前に弓を引いた。
背を見せた金色スライムには矢が刺さり、同じ様に爆散。
レベルは44にまで上がる。
……どうなるかと思ったが、結局朱音に助けれられてしまったな。
これは何かお礼をしてやらないと。
「朱音、危ないところ助かった――」
「飯村君、がやった? 本当に? ……私、夢見てる訳じゃないよね?」
朱音は俺の急激な変化に礼の言葉を聞く余裕も無いようだ。
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