第5話 朱音
「おい見たか、あいつ江崎さんに買取査定してもらってたぞ」
「じゃあとんでもない魔石、それか素材をダンジョンで手に入れたんだろうな」
「この状況のダンジョンで得するとかなんか怪しくないか? もしかしてこの異変に1枚噛んでるとか」
「それあるな。しかもあいつ初期の探索メンバーだったっていう飯村だろ? 俺達よりダンジョンの事を知っている筈だし、自分が中々強くなれないからって逆恨みしててもおかしくはない」
買取をしてもらっただけなのに見当外れの陰口がそこら中から聞こえてきた。
あいつらはその声量で聞こえてないとでも思ってるのかな?
折角大金を稼いだっていうのに不快極まりないな。
こんな日は日の高い時間からしこたま酒を飲んでもいいよな――
「あなた達、他人の買取査定を勝手に詮索するのはマナー違反よ。それとダンジョンの異変は恐らく100階層以降でも現れてる。彼の様に上層で狩りをしている人に同行出来るわけがないわ」
「あ、えっと、すみません朱音さん……」
「……あなたとは名前で呼ばれる程の仲ではないのだけれど。ただただ、不快だわ。ちょっと注意するだけにしようとも思ったけど……あなたの所属ギルドは?」
「あの、それだけは勘弁してください。俺の稼ぎはギルドあってのものなんですよ」
「それなら探索者としてのマナーくらい守りなさい。いいわね?」
「は、はい」
一際大きな声で俺の陰口を言っていた男とその仲間はそそくさとその場を後にした。
それを見た他の探索者は俺に視線を向けるのを止めて、自分の作業やスマホに視線を落とす。
相変わらず只ならないオーラというか威圧感だよ、この人は。
「久しぶりね飯村君。あんまり他の人の事を根掘り葉掘り聞くのもマナー違反だと分かってるけど、江崎さんに査定してもらったていうのは、その、もしかしてかなりレベル上がった?」
「……。まだ35だな」
「そっか……。実はギルドのメンバーを久々に募集しようって案が出てるんだけど……」
「ダンジョン攻略最前線のギルドに俺なんかが混ざれるわけないな」
「確かにレベルはあれかもだけど、リーダーシップもあるし、私が交渉して飯村君をメンバーにって事も……」
「今のままじゃあいつらが納得しないだろ? さっき拓海に会ったが皆俺の遙か先、もう追いつけないって面と向かって言われたよ。……朱音はもう俺に気を使う必要はない。今のメンバーだけでダンジョン攻略頑張ってくれ」
「……」
「それと拓海は1人で50階層と100階層の様子を見に行ったぞ。ワープゲートが利用出来なくなったからってな。多分ギルドメンバー、特に朱音に不都合が出ないようにこっそり1人で向かったんだとは思う。流石にしんどい仕事になるだろうから助けに行ってやってくれ」
「飯村君――」
「拓海ならワープゲートが利用出来なくなった事を既に報告済みの筈、あいつは気が利くところがあるから。あの、そういった報告ってもう来てますよね?」
「……確かに受けてるわね」
俺達の様子をちらちらと見ていた査定してくれた女性、江崎さんに声を掛けると案の定話を聞いていたようで、あっさり返事が返ってきた。
優秀な人は至る所でアンテナを高く張っているものだ。
「それじゃあ俺は臨時収入も手に入れたからここで……。改めて頑張れよ」
「飯村君……。私が探索者に誘ったのに、その、ごめんなさい」
「これはこれで楽しいから気にするな。……俺こそ弱くてごめんな」
俺は久々に会った初期メンバーであり幼馴染の姫川朱音に謝罪の言葉を送ると、ダンジョンを出てスーパーで高めの缶ビール6缶パックとつまみを買い漁るのだった。
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