第4話 窓口
「多いな……」
ダンジョンを出ると普段よりも多い探索者が入り口付近でたむろしていた。
だがコンビニの前で座って喋っている学生みたいな雰囲気ではなく、傷の治療に追われて焦っていたり、顔面蒼白でしゃがみ込んだままになってしまっていたりと緊迫した空気が辺りを包んでいた。
ここダンジョンの入り口は巨大なビルの地下に2階にあり、上階には医療施設等が設けられていている。
その為この場にも医療施設の人達が姿を見せ、致命傷を負った人は次々その人達にエレベーターに乗せられていく。
まさか医療施設の人達も一度にここまでの怪我人が出ると思わなかったのだろう、どこか冷静さに欠けているような言動が見受けられる。
大変だとは思うが俺に出来る事はダンジョンでの出来事の報告くらい。
俺はエレベーターではなく階段を使って探索者窓口へと向かう。
探索者窓口では探索者になる為の申請や探索者というものについての説明会、探索者限定で魔石やモンスターの素材の買い取りを行ってくれている。
それ以外にも証明書の発行・更新も行っていて、役所に近い役割を担っている。
場所はビルの10階。
探索者を優遇する商業施設よりも上の階にそれはある。
これは一般の人達でも商業施設を利用しやすいようにと、特殊な空気感のある探索者窓口を一般の人の目に付き辛い場所にした結果らしいのだがエレベーターが使えない現状だと非常に面倒くさい。
ちなみにビルの地下1階が医療施設になっており、これも一般の人達の目に入り辛くする為らしい。
一々そんなことを気にする位なら探索者限定の施設にすればいいと思っているのだが、ここを潤滑に運営していく為、魔石などの買取を行う為に一般の客層から利益を得る事も重要なのだとか。
「――ダンジョンでの異変情報を提供してくださる方はこちらの用紙に記入して頂いた上でボックスに入れて頂けると助かります。メールでの報告も受け付けていますが、現在サーバが混雑しており届くまでに遅延が出ていますので、探索者全体に早急に情報を伝達する為に用紙への記入をお願いします」
探索者窓口に到着すると、複数の探索者が待機用のソファで用紙への記入を行っていた。
きっと窓口の人もこの状況を察して1人1人しっかりと対応している時間はないと判断してこういった方法で情報を集めているのだろう。
若い人がボックスの中身をこまめに回収している所を見ると、早いうちにダンジョンのまとめ情報がメールで送付されてきそうだ。
俺はそんな様子を眺めると整理券を貰い、自分もその用紙に記入をしながら買取りを待つ。
金色の部位を持つモンスター、蘇生能力、大量経験値、ボスのランダム沸き。
こうやって書き出してみると、起こった出来事の異常さが浮き彫りになるな。
「では次5番の方」
「はい」
書き終えた用紙をボックスに突っ込むと俺は買取りカウンターへと案内される。
さて、これが幾らくらいの価格になるのか楽しみだ。
「ではまず証明書のご提示をお願いします」
「はい」
探索者の証明書の提示。
これがないとダンジョンに侵入出来ても、そもそもの買取がしてもらえない。
因みにこの証明書の発行には50万円の費用が掛かり、直ぐに支払えない人はその分の魔石を集めて他の探索者に魔石を担保にお金を借りる事がある。
詐欺行為に繋がる可能性が高い行為なので、国としてはこれを禁止しているのだがこの手の事件で裁判沙汰になる人は未だに多い。
「ではお預かり致します。口座登録がお済でしたら口座にお振込み致しますが、現金手渡しも可能です。ですが支払額、支払い先情報は税務署に送られますので確定申告を忘れず行っていただく様にお願い致します」
「はい。じゃあそのまま口座り込みでお願いします」
「かしこまりました。それでは取得したアイテム、魔石を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい」
俺は金色の歯牙と極大の魔石を取り出して、カウンターの上に乗せた。
すると、受付のお姉さんは目を見開いてじっとそれを見つめ始める。
探索者窓口で働く人達はアイテムの買取りをする為に事前にダンジョンアイテムの目利きの資格を取得している。その場で直ぐに査定が出来るのでいつもはそんなに時間はかからないのだが……。
「少々お待ちください。すみません! 査定補助お願いします!」
女性はカウンターの奥に居た人を呼び出した。
きっとこの人の上司なのだろうけど、こっちまで委縮しそうな程の雰囲気を持っている。
「すみません。このアイテムの査定は私1人では……」
「なるほど……。因みにあなたはいくらだと思いました」
「魔石に関しては50万、素材に関しては10万円程かと」
「魔石は100万、素材は……未発見の物、しかも今話題になっている異変の究明の手掛かりになるかもしれない物だから、100万円ね。値付けが高すぎると国にクレームを入れられたら、査定者に私の名前を記載すればいいわ。それじゃあ後は頼んだわよ」
「はい。ありがとうございます」
上司の女性はあっさりと高額を言ってのけると後の仕事を任せてカウンターの奥に戻っていった。
まるで変わらない表情。普段もっとレベルの高い探索者の相手でもしている、この界隈で有名な人なんだろうな。
「失礼致しました。それでは計200万円の買取りをさせて頂きます。了承いただけましたら、こちらにサインをお願いします」
「はい。ありがとうございます」
日給200万円か。
昨日までは日給1万円を割る日もあったんだが……どうしよう俺、成金になっちまうよ。
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