第3話 魔石極大

「きゅあああああああああああっ!!」


 異常な程強化された会心威力のその数値に驚いていると『ボーパルバニー』が左右にステップを踏みながら向かってきた。

 俺の攻撃が直線状の単調なものだと最初に一撃で学んだからこその距離の縮め方だろう。

 色違いになった事でステータスの強化とは別に知能まで高まったか。


 どこか楽しそうにも見えるそんな『ボーパルバニー』に向けて、俺は雑に弓を引いた。

 これはスキル:『必中会心』の解説を聞く限り、狙いを定めるなんて行為をする暇があればさっさと弓を引いた方がいいと判断したからなのだが……本当にちゃんと追尾してくれるのか?


「きゅあっ!?」

「おお……」


 矢は1度『ボーパルバニー』に躱されてしまったが、そのまま後方に飛んで行くのではなく旋回して標的である『ボーパルバニー』を追い始めた。

 『ボーパルバニー』もこの矢の挙動には驚きを隠しきれないようで、一瞬動きを止めた。

 その間にも矢は勢いを殺す事なく飛び、『ボーパルバニー』の眼前に迫った。


 慌てた末矢を避ける余裕が無かったのだろう。

 『ボーパルバニー』はその金色の歯牙をさらに突き出して矢を受け止めようとしたのだ。


 しかし



 ――バキ。


 金色の歯牙は赤い光のエフェクトが現れると同時に痛々しい音を上げながら綺麗に折れてしまった。

 通常の攻撃では『アルミラージ』の金色の角に傷1つ入らなかったというのに……。


「会心の一撃様々だな」


 そもそも会心の一撃なんてこの10年で1度も発生させた事が無かった現象であり、宝くじで当たり引くような感覚のもの。

 それを確定で発生させられるこの『必中会心』というスキルはチートスキルと言っても過言じゃないかもしれない。

 これは今後ステータスポイントを会心威力に極振りしろと言われているようなものだな。


「きゅ、あ……」

「歯牙を折っただけじゃHPを削り切れはしないか、なら今度はその額にぶち込む」


 歯牙が折れた痛みで俺に攻撃を仕掛けるどころじゃなくなった『ボーパルバニー』。

 俺はそんな『ボーパルバニー』に向けて躊躇無く弓を引いた。


 放たれた矢はその額目掛けて一直線。

 だが『ボーパルバニー』は矢が近づいて来ている事に気付く素振りもない。



 パンッ!!



 初めに矢を当て肉が抉れた場所に再び矢が当たると、今度は頭の骨や脳までが弾け飛び『ボーパルバニー』の息の根を完全に止めた。

 ステータスポイントを振った事で桁違いに威力が上がっているという事再認識すると、俺は金色の歯牙に触れた。

 普通殺したモンスターは時間経過、或いは触れる事で魔石へと変換されるのだが、稀に破壊した部位をそのままアイテムとして拾得する事が出来る場合がある。

 俺はこの金色の歯牙がそれに該当すると疑わず、触れたというわけだ。


『アイテム:人殺し兎の金色歯牙。効果:無し。説明:『ボーパルバニー』の金色の歯牙。死んでしまったモンスターに自らの生命を譲渡し、復活させる事が出来る。また自らの生命を犠牲にステータスの一部を譲渡する事も出来る。自分より強いモンスターを生かしより強いモンスターを誕生させる為に用いられる事がある』

「より強いモンスターを生み出す為に、か」


 歯牙に触れるとアイテムの詳細が強制的に浮かび上がる。

 ステータス同様のゲーム的仕様。始めて入手するアイテムに関しては詳細が必ず浮かび上がり、2回目以降は念じる事で再び確認出来るようになる。

 アイテムによってはこの説明欄にギャグ的な事がかかれている場合もあるのだが、今回書かれていた内容は不穏としか言いようがない。

 やはり10年という歳月を得てこのダンジョンに異変が訪れているのだ――


『【ボーパルバニー】を金色部位を破壊後に倒しました。大量に経験値を得ました。レベルが30から35に上がりました。ステータスポイントを10獲得しました』

「……30から35?」


 再びのアナウンス。

 その内容はまさかの一気に5レベル上昇というもの。

 色違いのモンスターの出現は不穏なだけではなく、大量経験値を得る為のチャンスなのかもしれない。


「あ、そ、そうだ。魔石の回収も忘れずにしておかないと。……凄いのは経験値だけじゃないみたいだな」


 『ボーパルバニー』の死体は触れると綺麗に消え、大きな魔石を落とした。


『アイテム:人殺し兎の魔石(極大)、効果:水源、説明:強化された『ボーパルバニー』の体内で生成された魔石。蓄えられた水性魔力は行使する事で膨大な水を生み出す』


 魔石は新しい資源として国に買い取られ、その大きさや効果によって買い取り額が変動するのだが……極大なんて初めて見た。


「なんかもうお腹一杯って感じだな。……帰るか」

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