第2話 強化

「なんでお前がこんなところにいるんだよ? もっと深い階層で狩りをしなくていいのか?」

「50階層と100階層のワープゲートが利用出来なくなってな。まったく面倒な事になったもんだ」

「そうか、100階層のワープゲートも発見されたのか」

「お前がこんなところで兎を狩ってる間にな。……全く成長していないわけじゃないらしいが、俺は既にお前の遙か先にいる。もう追いつけるところにはいない。それをあいつも分かってくれれば……」


 拓海は水球の中に閉じ込められた『ボーパルバニー』を見ながら言葉に影を差した。


「まだ期待してくれてるのか、朱音は」

「……まったく困ったもんだよ。それじゃあな一也。そうだ、お前も気づいてると思うが10年という月日が経ってダンジョン内に異変が起き始めてる。気を付けろよ」

「ああ、ありがとうな」


 結局拓海は俺と目を合わせる事もないままに下の階層へ向かってしまった。

 言葉に刺があるものの、『気を付けろ』なんて言葉が出てくるのが拓海らしい。


「それにしても、ボスか……俺も狩場を変えるか?」


 ダメージは与えられたが距離を詰められて危険な状況だった事を思えばそれが無難な判断。

 せめてモンスターが怯む位の威力のある攻撃が出来ればいいのだが……。


「――そういえば俺もステータスポイントが獲得出来てたんだっけ」


 ステータスポイント。

 レベル30から増える要素で、それを振り分ける事で攻撃力や防御力等のパラメーターを自分なりにカスタム出来る。

 これの振り方によって同じ職業、例えば剣士でもタンク、アタッカー等異なった役割をこなすことが出来るようになるのだ。


 『弓使い』はそもそも攻撃が当たらない前提の職業だから攻撃か敏捷性に振るのが良さそうだが……とにかく1度ステータス画面を見てみよう。



 『ステータス』



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名前:飯村一也(いいむらかずや)

職業:弓使い

年齢:28

レベル:30

HP:40/40

魔力総量:5

攻撃力:30

魔法攻撃力:8

防御力:20

魔法防御力:20

会心威力:1500%

スキル:必中会心

ステータスポイント:10

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 心の中で『ステータス』と念じると俺の目の前にステータス画面がホログラムの様に現れた。

 ダンジョンの仕組みは全体的にゲームに似ていてとっつきやすい。だがその所為で現実である事を忘れてしまい、無暗に突っ込んで死んでしまう探索者も少なくない。


「さて、取り敢えず攻撃……いや、確定で会心の一撃が出るなら『会心威力』でもよくないか?」


 ステータスポイントは基本1ポイント振り分ける事でパラメーターも1上昇する。

 ただ会心威力に関しては%表記。会心威力なんて振り分ける人はいないからその上り幅も分からない。

 好奇心が俺を支配し始める。次いつレベルが上がるか分からないのだから無難に振り分けた方がいいっていうのは分かるのだが……。


「きゅっ?」


 ステータスポイントの使い方に謝を悩ませていると、さっき逃がした色違いの『アルミラージ』がいつの間にか『ボーパルバニー』の死体の側に現れていた。

 同じ兎型のモンスターとして可哀想に思ったのか、『アルミラージ』は水の中にその金色の角を突っ込んで死体をつつく。

 すると次第に『アルミラージ』の角の色が通常色に変化、反対に『ボーパルバニー』の鋭く突き出た一本の歯牙が金色に染まり始めた。

 歯牙が完全に金色に染まると『アルミラージ』はぱたりと地面に倒れ込み動かなくなる。


「これは……。色違いなんていうレアな個体がちょっと素早いっていう特徴しかないなんて事、あるわけないよな」


 水の中で赤い瞳に生気を宿す『ボーパルバニー』。

 それを閉じ込めていた水球は制限時間が切れたのか、ただの水へと返り地面に落ちた。


 一転して大ピンチ。

 攻撃にステータスポイントを振った所で、10上昇は大幅な威力アップには繋がらない。それに色違い個体に変化した『ボーパルバニー』はステータスが強化されている可能性もある。


 そうなるとここは一縷の望みに掛けて会心威力に全振りするしかない。


『会心威力に+10ポイント。会心威力が1500%から2500%に強化されました』

「……マジでか」


 頭の中に流れた強化内容。

 それは1ポイントで会心威力100%増加を知らせるとんでもないものだった。

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