会心威力依存型最強弓使い~ダンジョンの現れた世界で無能スキル《命中補正》が覚醒しました!強化した100%会心の一撃になる矢を放って最速レベルアップを開始します~
ある中管理職@会心威力【書籍化感謝】
第1話 会心の一撃
「速いな」
ダンジョンが現れてから10年、俺が探索者として活動を開始して10年。
毎日ダンジョンに通い兎型の一角モンスター『アルミラージ』を狩って生活資金を稼ぐ。
そして今日もまたこんな階層でちまちま狩りを行っていると、目の前に金色の角を持つ『アルミラージ』が姿を現した。
出現するモンスターのデータベースに色違いの個体の記載はなかった。
これは必ず狩って魔石をドロップさせないといけない。そう思って弓を引いたが矢は空を切り、ぽとりと地面に落ちる。
色違いの『アルミラージ』が通常の個体よりも明らかに素早い事も原因だが、それ以上に俺の『弓使い』という職業がこのレベルのモンスターに対応出来ていない気がする。
ダンジョンに踏み入れると地上とは異なるパラメーター、職業が与えられる。
これを元に得られたスキルは一部地上でも使う事が出来、それを利用して財を築く人もいる。
ただ誰しもが同じ職業に就けるわけではない。
何故なら職業の振り分けは完全にランダム。しかも職業の数は現在確認出来ているだけで数百はある。
それだけの数があれば当たりもありハズレもある。
俺のこの『弓使い』という職業は一見当たりに見えるかもしれないが、弓を持っていなければ攻撃力はゴミ。しかも他の職業と比較して基本スキルの性能が低すぎる。
『命中補正』
心の中でそう念じると視界に照準器が現れる。
これが『弓使い』の基本スキル。威力を上げてくれるわけでも、技術を向上させてくれるわけでもない。
ダンジョンの現れたその年からずっと探索者を続けているが、未だに深い階層まで進めていないのはこれの所為。
周りがファンタジーな狩りを披露しているってのにこっちはいつの時代の狩りをさせられているのやら。
「……若干右寄りへ」
第2射。
俺は『アルミラージ』の角が中心ではなく若干右についている事を確認して弓を引いた。
角が付いている場所によってどの個体がどっち側に動きやすいのか、そんな事は10年間『アルミラージ』狩りをしていれば分かって当然。
案の定矢の音を聞いて右に移動を始めた『アルミラージ』。
それに矢は吸い込まれるようにして、向かっていく。
これに気付いた『アルミラージ』は慌てて反対に舵を切ろうとするが、それではもう遅い。
「当たっ――」
矢が『アルミラージ』を捉えたと思い、拳を握る。
しかし、矢が当たった場所は角の根本部分。しかも金色の角は折れるどころか傷さえも出来ていない。
当然『アルミラージ』を殺す事は出来ず、危険を悟った『アルミラージ』はそそくさと巣穴へ。
「はぁ、こんなに長い間探索者をしてるのに、あんな奴さえ満足に狩れないなんて……情けな――」
『ボーナス経験値を取得しました。レベルが29から30に上がりました。ステータスポイントを10ポイント獲得しました。職業:弓使いに就いてから10年経過しました。条件を満たし、スキル:命中補正が覚醒しました。命中補正は【必中会心】に名前を変え、自動追尾の効果、更には確定会心の一撃の効果を得ました。照準器効果についてはお好みで取り外しが可能となりました』
「へ?」
ダンジョン特有の状況説明アナウンスが頭の中に流れた。
アナウンスがどういう仕組みで頭の中に流れ込むのかは未だに分かってはいないが、これが流れるタイミングは基本レベルアップ等のタイミングで、疑問符が浮かぶよりも先にテンションが上がってしまう。
今回に関しては『ボーナス経験値』という仕組みも気になるところだが……そんな事よりも今は覚醒したスキルを試したくて仕方がない。
「どっかにまた『アルミラージ』が居れば――」
「おい!ボスが……ボスが湧いてるぞ! みんな逃げろっ!!」
あり得ない言葉に俺は振り向いた。
すると確かにそこには10階層にいるはずのボス『ボーパルバニー』が。
金色の角を持つ『アルミラージ』といい、ボスの発生といい、10年経過してダンジョンのシステムに変化が起きてるのかもしれない。
「あ、あんたも早く逃げろ! 殺されちまうぞ!」
フロア内に警告してくれた探索者はそう言って俺の横を通り過ぎていった。
ボスは通常のモンスターとは別格の強さ。1度5人のパーティーで戦った事もあるがその時は……。
「俺も逃げないと――」
「きゅあああぁぁあああああああ!!」
逃げようとした瞬間『ボーパルバニー』は鳴きながらその太い後ろ足で地面を蹴り上げた。
一気に接近してくる『ボーパルバニー』。この速さ……逃げる事は不可能。
「くっ!」
俺は駄目元で弓を引くが、『ボーパルバニー』はそんな俺の矢を避けるまでもないと思ったのかそのまま突っ込んでくる。
『死』。その文字が頭を過った瞬間に矢は『ボーパルバニー』の額に突き刺さり……
パンッ!
弾けるような音と共に赤い光のエフェクトが発現した。
「きゅあ、あああ……」
「き、効いてる?」
矢の刺さった場所は爆弾が炸裂したかの様に抉れ、『ボーパルバニー』は動きを止めた。
これが会心の一撃、なんていう威力だ。
「これなら……もしかして勝て――」
「『アクアプリズン』」
唐突に『ボーパルバニー』の体が水の球に閉じ込められた。
そして『ボーパルバニー』は苦しそうに藻掻きながら、溺死。
この水スキルって事は――
「久しぶりだな。拓海」
「……。まだ兎如きで苦戦してるなんて……。初期メンバーとしてそれは恥だと思った方がいいぞ、一也」
そこにはダンジョンの最深到達記録を持つ同期の探索者、真田拓海の姿があったのだった。
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