IRフォトン砲搭載型一式戦闘機
第43話 IRフォトン砲
ヴァルボリ空軍基地に降り立った俺たちを迎えてくれたのはティターニアの面々だった。
整備班長のマグノリアに、基地司令のニルヴァーナもいた。そして、ノーザンブリア空軍基地からは既に工場長のクリスティン・レオンハルトが到着していた。
「香月、よく戻ったな。貴様の機体は用意してあるぞ」
ニルヴァーナ司令が指さす方に駐機していたのは、濃緑色に塗装された一式戦だった。
「香月、よく戻ってきたな」
「はい。何とか生き延びています」
「この機体は、基本的にはお前が乗っていたハイオク仕様の三型改だが」
「?」
「主翼の機関砲の代わりにIRフォトン砲を搭載してある」
「フォトン砲……??」
何のことやらわからない。そもそも、一式戦の主翼は機関砲を搭載するためのスペースもなく、強度も不足しているのだ。それをマグノリアの魔改造で強引に取り付けたのだが。
「有体に言えばレーザービームだよ」
「レーザー……何故そんなものが」
「先ほど出会った敵はそんな武装をしていなかったか?」
「そうだ。オレンジ色のビームを放っていた。ヤブサカの的確な回避で命中はしなかったのだが」
「ここから出たモスキートはそのビームに貫かれて墜ちたよ」
「何故、そんな武装の機体が存在しているんだ? このエリアでは、地球の大戦期、第二次世界大戦時の機体や装備の限定されていたはずだ」
「そうだ。そうする事で戦力の均衡を図っていたのだが、それが崩れた。貴様とそこにいる悪役面、ブラッディオスカーとデスザブルースカイのせいでな」
セナが言っていた内容と同じだ。しかし、こんなに早く、しかもレーザーなどの装備が実戦に投入されるなんて想定外すぎる。
「そこで、我々の陣営にも新装備のダウンロードが許可されたのだ」
新装備は分かるが、ダウンロードとはどういう意味だ。ニルヴァーナ司令はこのアルスの事を何処まで知っているのか。
「詳しい話をしてやりたいところだが、今から出撃だ。今日はゆっくりと休んでおけ。そうそう、そこの悪役面の機体も用意してあるぞ。二式戦だが、お前が乗っていたグスタフよりも高性能に仕上げてある。ま、試し乗りくらいは許可してやる」
夜明け前のうす暗い空の彼方へと、十数機の戦闘機が飛び立っていった。ニルヴァーナは相変わらずモスキートに乗り込み、先頭を切っていた。随伴しているのは爆装したハリケーンとスピットファイアだった。
「今回の新装備、IRフォトン砲は対航空機用の低出力型になる。ペイントモードもあるから、試しに模擬空戦でもしてみるかね」
提案して来たのはマグノリアだった。
「ペイントモードとは何なんだ?」
「文字通り、機体表面を軽く焦がすだけの低出力モードさ。機体の方にも反応剤を塗布しておく必要があるが、やってみるかね?」
新装備の感触を確かめておく良いチャンスだ。しかし、相手は……悪役面か?
「面白そうじゃねえか。まあ、俺との勝負ならコイツの勝率は三割くらいだ。クククッ」
「それは慣れないドイツ機、Bf109で飛んだからだ。一式戦なら負けない」
「ほう。強気だね」
「泣かせてやる」
俺と悪役面が睨み合っているその時、髭面の副指令が駆け寄って来た。
「よく帰ってきたな……あ? 何をする気だ?」
「模擬空戦だ。新装備のテストを兼ねてな」
マグノリアが副指令に細かい説明をしている。ビームと銃弾では弾道特性が違いすぎるので、ベテラン程その違いに戸惑うと。
「なるほど。許可するが30分だけだ。二人には休息してもらわにゃいかんからな。それと、ガンカメラで動画撮影をしておけ。教育資料にする」
「もちろんですよ」
マグノリアの合図で発動機が始動した。いつものように、大型の起動車を使っての始動だ。
俺は一式戦の翼の上に登り、そこからコクピットへと乗り込む。爆音が響く中、整備員が声をかけて来た。
「これは前に香月さんが乗っていた機体と同じです。違っているのは両翼の武装と発射ボタン、そして照準器です」
「照準器が違うのか?」
「はい。ビーム砲用の直接照準と、機関砲用の偏差照準が同時に表示されます」
「何だって?」
「それとトリガーは二つあります。機関砲用が親指、ビーム砲用が人差し指です。間違えないで下さいよ。弾は入ってますから」
「ああ。わかったよ」
なんてこった。未来の武装と未来の照準器を扱えというのか。しかもぶっつけで。ちらりとヤブサカの方を見ると、奴も整備員から説明を受けていた。
「あっちは高速で上昇力は抜群ですが、旋回性能では一式戦に敵いません。香月さん頑張って」
俺はスロットルを前に倒してエンジンを吹かす。誘導路から滑走路へと進む。アスファルトの路面が非常に滑らかで、芝生を敷きつめただけのティターニア空軍基地とは運泥の差があった。
そのままスロットルを全開にして加速し、黒々とした路面から上昇していく。後ろを振り返ってみると、ヤブサカは滑走路で加速中で、今から機体を浮かせるところだった。
「高度3000まで上昇しろ。最初は照準器とビームの感覚に慣れるため、三回づつ交代で被弾しろ。その後、真剣勝負をしてみろ。お前たち二人、どっちが勝つか。ここの全員が注目しているぞ」
マグノリアからの通信だ。やはり俺たちを見世物にするつもりのようだ。しかし、ノーザンブリア空軍基地ではヤブサカに何度も苦渋を舐めさせられた。今度は得意の一式戦だ。絶対に負けるわけにはいかない。
ちょうど夜が明け、朝日が登ってきたところだ。朝焼けの赤く染まった空の中を、一式戦と二式戦がぐんぐん上昇していった。
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