第20話 攻撃開始
時速400キロで巡行していたのだが、一気に速度を上げる。薄暮の時間帯に高度700メートルで500キロ以上だ。キチガイじみているが構ってはいられない。山間部を抜け平野部へと侵入した。この先に対空砲陣地が幾つも見えるのだが、俺たちに気づいていないのか静かなものだ。後方500メートル。高度1000メートルを爆装したハリケーン隊と二式複戦隊が続いている。
「さらに高度を下げろ。対空砲は近すぎると当たらない」
「豪気だねえ。一番槍は私が貰う」
二式戦の鰐石女史が俺の前に出てさらに加速していく。それに続くのが紫電二一型の二機だ。俺たちが通り過ぎた後、対空砲陣地が散発的な反応をし始めた。当直勤務の者がうたた寝でもしていたのだろうか。しかし、右側二時方向の陣地はひっきりなしに閃光が弾け、上空の偵察機へと向けて発砲を繰り返していた。
運がいい。後は滑走路に待機しているであろう敵戦闘機を叩くだけだ。
「注意して。小型の無尾翼機が離陸した。6機。アレはコメートよ」
コメートだと?
メッサーシュミットMe163。旧ドイツ軍で実用化されたロケット戦闘機だ。
「そのまま上昇していくわ。高高度爆撃隊を狙ってる」
「わかった。コメートは無視しろ。タ弾は滑走路にぶちまけろ。ロケット噴射の高熱に対応するため、耐熱のコンクリートかアスファルトで舗装してあるはずだ。穴だらけにしてやれ」
「了解よ」
鰐石女史の二式戦が、続いて紫電改の古熊と天花が突っ込んで行く。そしてタ弾を投下した。
タ弾とは小型のクラスター爆弾である。成形炸薬を仕込んである小弾爆弾を30個を束にしたものだ。
先行する三機の投下した爆弾は投下直後に弾けて子弾を撒き散らした。それが滑走路上で次々と爆発していく。
続いて俺とマリカ、水之上が滑走路に突っ込む。俺は滑走路の脇で発進準備中だと思われる戦闘機を狙ってタ弾を投下した。
恐らく発動機を回したばかりであろうBf109が6機、バラバラになって炎上し始める。
「戦闘機が少ないし爆撃機は見当たらない。B29はいないぞ」
「そうだな」
水之上の報告だ。昨日、あれだけの数で攻めて来たのだが、何処に行ったんだ。
「俺たちの襲撃は読まれていた。大半の敵機は退避してるんだ」
「そうなの? だったらお出迎えが寂しいわね」
そうだ。上空で待ち伏せしていてもおかしくはなかった。それは恐らく、襲撃の時間を読み違えていたから。迎撃に上がったのはP51数機とMe163が6機。発進準備中だったBf109が6機だけだ。
「直ぐに戦闘機が押し寄せてくるぞ。その時まで弾は温存しておけ。高度3000まで上昇しろ」
爆弾を投下し終わった香月隊は緩やかに上昇していく。俺たちにやや遅れ、ハリケーン隊と二式複戦隊が対空砲陣地と基地施設の爆撃を開始した。しかし、ここヴァルボリ空軍基地には戦闘機も爆撃機もほとんどいない。爆撃隊はヴァルボリ空軍基地を素通りし、ウェセックスの工場地帯へと向かった。ここから五分程度の距離となる。
さて、高度3000メートルまで上がったのだが、果たして敵機は来襲してくるのだろうか。東の空が白み始めるころだ。マリカが翼を振りつつ警告してきた。
「九時方向。西からよ。小型の機影多数。あれは……シュヴァルヴェ……メッサーシュミットMe262。高度一万メートルから接近中」
今回、高高度隊は貧乏くじを引いたようだ。世界初の実用ロケット戦闘機とジェット戦闘機のお出迎えがあったのは運が悪い。
「シュヴァルヴェの後方からも小型機多数。低高度からはヘルキャット、コルセア、フォッケウルフのヴュルガーとドーラ、メッサーシュミットのフリードリヒとグスタフ。それに……シューティングスター」
一体、何機いやがる。F6FにF4U、Fw190AとD、Bf109のFとG、それにジェット戦闘機のP80とは大盤振る舞いだ。
「機数はわかるか」
「さあ。数えるのが大変なくらいね」
「そうか。各員奮闘せよ」
俺たち香月隊が高度3000メートルで同じ高度。爆撃隊の護衛についている四式戦と零戦は高度5000。爆弾を投下済みのハリケーン隊と二式複戦隊は俺たちよりもさらに高度を取っており、約4000メートルだ。
連中は何を狙う?
戦闘機か爆撃機か。
迷うなら俺たちが圧倒的に有利になるのだが、そんな事はなかった。連中は二手に分かれた。シューティングスターを含む米軍機は爆撃隊へと向かい、他のドイツ機が俺たちに向かって来た。
望むところだ。
「降下しながら二時方向へ捻り込め。格闘戦に持ち込むんだ」
「了解よ」
「任せて」
「わかった」
各メンバーの応答が済まないうちに、俺は機体を捻りつつ降下を始めた。高度のあるハリケーン隊と二式複戦隊。高度を下げた香月隊。敵はまた隊を二つに分けて対応する。フリードリヒとグスタフが上昇していき、ヴェルガーとドーラが降下しながら突っ込んできた。
Fw190。火力と加速性能と上昇力に優れた機体だが旋回性能は日本機には劣る。常識的には一撃離脱戦法を取ってくるはずだ。
二機のヴェルガーが俺の背後につき、機関砲を浴びせてきた。俺は機体を捻りながらそれをかわし、更に地上スレスレまで降下してから再上昇する。縦方向に旋回しつつ、その途中で左に機体を捻る。二機のヴェルガーは一式戦の空戦機動にはついてこれず、次の旋回で奴らの背を捉えた。
機首の20ミリ機関砲が火を噴き、ヴェルガーのコクピットに吸い込まれた。そいつは爆散しながら墜落し、すぐ後ろを飛んでいたもう一機はその破片をまともに喰らって地面に衝突した。
次だ。俺は上昇しながら次の獲物を探す。しかし、キーンという甲高いタービン音が背後から迫ってきた。まさか、こっちにもジェットがいたのか。
曳光弾が機体を掠めるのと同時に機体を捻り水平旋回へと移る。朝日の昇る直前の、明るい空に浮かんだそいつは米海軍のジェット戦闘機、FHファントムだった。しかし、ジェットはもう一機いた。旋回しながらほぼ正面に。
偶然とはいえ射線上に出てしまった俺の機体は奴の放った機関銃弾に貫かれ激しく発火した。
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