第10話 マグノリアとニルヴァーナのメカニック講座その②プロペラ同調装置編
「整備班長のマグノリアです」
「基地司令のニルヴァーナだ」
「司令、迎撃任務お疲れ様です」
「うむ。私は上空で指揮を取っただけだがな」
「それでもサンダーボルトを一機撃墜されたと」
「まあな。私に突っかかって来るからああいう目に遭うのだ。ちなみに私は香月同様、容赦なくコクピットを狙うからな」
「ご愁傷様ですね」
「ああ。では早速本題に入ろうか」
「はい。本日のテーマはプロペラ同調装置です。これはプロペラの回転圏内で機関砲を発射しても、何故プロペラを撃ち抜かないのかと」
「多くの人が疑問に思っているだろうな」
「はい。まず、最初に機銃を装備した戦闘機としてはフランスのモラーヌ・ソルニエ Lとなります。当時の機体は機関銃を一丁乗せるのが精一杯であり、また機関銃が載せられるような翼でもなかったのです。プロペラを撃ち抜かないようにギア式の同調装置を開発していたのですが上手く行かず、結局はプロペラに楔状の装甲をつけて弾丸から防御する方式となります。それでも1915年4月にはドイツ機を三機撃墜しています。対するドイツはフォッカーアインデッカーにプロペラ同調装置を装備し対抗します。この機体は戦闘機として生産された初めての航空機です」
「1915年か。古いな」
「ええ。構造としては意外と単純で、プロペラと同軸にカムを取り付け、カムに押されたピアノ線が引き金を引くようになっています。タイミングとしてはプロペラが機関銃の正面を過ぎる位置で作動します。当時主流の二
「つまり、プロペラ同調装置がガガガガっと引き金を叩き続けている事になるんだな」
「そうなりますね。本来は発射の際の反動で連続して引き金を引き続けるのですが、まあ理屈は同じです」
「ところで、同調ミスはなかったのか」
「それが、無いことはなかったようです」
「つまり、プロペラを撃ち抜いていた例があると」
「はい。プロペラ軸から機械的な入力をしますから、旋回する際のGでタイミングがズレる場合がありました。小口径の弾丸ならブレードに穴が開く程度で済みますが、大口径の炸裂弾の場合はプロペラが吹き飛びます」
「つまり、戦闘機動の際に発生するGによる誤作動が無いように、精密な動作が要求されるわけだな」
「そうですね。作動するタイミングの方も慎重に計算されていました」
「さて、時代は第二次世界大戦に移る。発動機の高出力化や全金属製の機体が当たり前になるわけだ」
「そうですね」
「7~8ミリクラスの機銃二丁が標準だったのが、20ミリなどの大口径機関砲を搭載した機体や機銃八丁なのど多銃装備した機体が登場した」
「英国のスピットファイアは7・7ミリを八丁装備していました。また、20ミリ機関砲を搭載したのは日本の零戦が有名ですね。ドイツのメッサーシュミットbf109もE型からは20ミリ機関砲を搭載しました」
「これは第5話でも解説しているな」
「はい。スイスのエリコンFFです。こちらの機関砲はブローバック式の為、プロペラ同調装置が使えないという欠点もありました」
「陸軍が三式戦や五式戦で胴体に20ミリを搭載していたが、海軍はしなかった。その理由がそれか」
「はい。そうです。ショートリコイル式でないと同調装置と接続できません」
「陸軍の機関砲は米軍のAN/M2の系列でショートリコイル式だったな。ところで、プロペラ同調装置を取り付けた場合は発射速度に制限があるのではないか」
「その通りですが、それでも日本やドイが胴体に機関銃を乗せ続けた理由は、機体の運動性を損なわない事と、命中精度が高い事にあります。翼に搭載した場合は弾道が交差する点で命中させないと破壊力が落ちますし、何しろ翼自体が微妙に揺れるものですから若干弾道がぶれてしまいます」
「なるほどな。連合国はその欠点を機関銃を多数装備する事で対処したと」
「そうなりますね」
「そうそう、マグノリア。モーターカノンについても話す必要があるぞ」
「はい。プロペラと同軸に機関砲を搭載したものをモーターカノンと呼びます。本来は、発動機の回転から入力して発射させるものをモーターカノンと呼んでいたようですが、広義にはプロペラ軸に装備した機関砲全般を指します」
「発動機はV型でないと搭載できないな」
「はい。V型に配置されたシリンダーの間に砲身を通します。ドイツのDB601は最初から機関砲を通す穴が開けてありました」
「それならライセンス生産されたDB601を搭載した三式戦もモーターカノンを搭載できたのでは?」
「理屈の上ではそうですけれども、何せ整備に手間のかかる液冷エンジンでしたので、モーターカノンは検討すらされなかったようです」
「だろうな。整備兵が発狂しそうだ」
「このモーターカノンを搭載した機体として有名なのが、ドイツ軍のBf109のF型以降です。それと地味な存在ですが、米軍のP39エアラコブラもプロペラ軸に37ミリ砲を装備していました」
「P39はエンジンを機体中央部に搭載した野心的な設計だったらしいな」
「はい。重量配分は理想的となり運動性も良好、また前方視界も良好でしたが……」
「が?」
「エンジンからプロペラまでの距離が長く、長大なプロペラシャフトを使用していました。その為、重量がかさみ性能は芳しくなかったようです」
「米軍にはP47やP51があったからな」
「はい。生産された大多数の機体は、ソ連へと送られ大活躍したようです」
「英軍では役立たずだったのが、ソ連軍では大活躍だったと?」
「はい。英軍では高速性能と高度性能が求められていましたが、ソ連軍では対地攻撃能力と低高度での運動性が求められていました。用兵思想の違いでしょう」
「なるほどな」
「では次回予告です」
「もう終わりなのか?」
「次回は……え?」
「どうした?」
「未定ですか? 本当に?」
「どうした。馬鹿作者が何かやらかしたのか?」
「次回は未定だそうです。今のところ、本物の♡♡♡シーンにするか、鈴野川女史の回想にするか、新規の空戦にするか決めていないそうです」
「出た。いつも通りの行き当たりばったりだな」
「そのようです。私としては、渾身の作である一式戦三型改ハイオク仕様の試乗をして欲しいのですが」
「私のモスキートに乗せる案はどうだ?」
「それも面白そうですね。モスキートは並列複座。隣同士でイチャイチャできます」
「ふふふ。香月をメロメロにしてやりたい」
「え? そんな事をすると鈴野川女史に睨まれますよ。あの人、結構恐ろしいですから」
「ああん? 私がそんな事でビビるとでも?」
「いえ、お二人が戦争を始めると、私を含め周囲の人間に甚大な被害が発生します。自重してください」
「そうか。しばらくは放置しておくか」
「司令の相手にはショタ系の美少年を用意するとの噂もありますし」
「ショタ? ショタだと」
「まあまあ、そう興奮なさらずに。では今回はこれまでです。次回、どうなるか全くわかりませんけども」
「ショタ! ショタだな」
「さあ? ではさようなら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます