第9話 インターセプト
俺とマリカは約3000メートルまで上昇した。これでもまだ低高度域であり、一式戦と五式戦の能力をいかんなく発揮できる高度でもある。
『B17が8機。護衛のP47は6機』
『A中隊はP47を追え。B中隊はB17だ。降下しながら狙え』
迎撃に上がった部隊から盛んに通信が入る。高度9000メートルで、B17の編隊に攻撃を開始したようだ。護衛にはP47が張り付いている。
「二時方向、上方に閃光を認む」
「司令がおっ始めたか」
「みたいね。でも、フォッケウルフとユンカースは何処?」
「多分、超低空から侵入している。探せ」
「了解」
俺とマリカは、基地より北西の低空域を飛ぶ。我々のティターニア基地から敵方のヴァルボリ基地への方向になる。
「見えたわ。正面、約5000。高度500。双発機が6。単発機が4」
「まだ見えんぞ」
「私は特別なの。双発機はユンカースJu188E、機首の風防に段差がない。単発機はフォッケウルフFw190AかF、機首が短い。アレは爆装してるよ」
何て目をしてるんだ。俺はやっと小さな機影を確認できただけなのだが、彼女はそこから機体のシルエットまで判別していた。
「さあて、ちゃっちゃとやってしまいましょうか。初撃はユンカース狙いで」
「わかってる」
二番機の位置、俺の右翼後ろ側にいた五式戦が機体をロールさせつつ降下していく。速い。俺も彼女の後を追うが、徐々に引き離されていった。
先行する五式戦が射撃を開始した。
6機のJu188は、丁度ダイヤモンド隊形に二機を加えたデルタ隊形。それに先行する形でいわゆる〝フィンガーフォー〟の隊形を組んでいるFw190。これは三機で組むデルタ隊形の右後方に一機を加えた形だ。
マリカの奇襲が完璧に成功した。五式戦の20ミリ機関砲は、隊長機であろう先頭を飛ぶ機体の操縦席部分を見事にぶち抜いた。そのまま地上スレスレまで降下し、再び上昇していく。
若干遅れて俺も突っ込んで行く。もう奇襲は通用しない。
左右に機体を振りながら、デルタの右後方に位置している五番機に狙いを定め、発射ボタンを押す。
機首の20ミリ機関砲が火を噴いた。曳光弾が右翼付け根とエンジン部分に吸い込まれて、ユンカースの右翼は火を噴いた。そして翼は折れ、そのまま墜落した。
「やるわね」
「あんたもな」
速度差があるため、一式戦では五式戦に若干遅れてしまう。
上昇しつつ敵編隊を確認するが、ユンカースはそのまま爆撃コースを飛んでいた。しかし、フォッケウルフ二機は爆弾を投棄し、反転し上昇を始めた。俺たちを墜とす気だ。
「二機で足りると思ってるのかしら。浅はかね」
そうかもしれない。しかし、低高度での迎撃機は俺たち二機。足止めだけならそれでも十分だと判断したのだろう。
「二機のフォッケは俺に任せろ。君はユンカースを墜としてくれ」
「もちろんよ」
マリカの五式戦は大きく弧を描きながら、ユンカースを狙って再び降下していく。上昇中のフォッケウルフは、彼女を追おうと旋回を始めた。
馬鹿か。旋回すると速度は落ちる。せっかくの高速性能を旋回で殺してどうするんだ。俺の光像式照準器が奴のコクピットを捉えた。
20ミリ機関砲がさく裂し、奴の機体は炎に包まれた。もう一機のフォッケウルフは俺の背後に取り付こうと、一旦上昇した後に降下して来た。俺は急激に機首を起こし、スロットルを緩める。一式戦はふわりと浮かび上がり、その下をフォッケウルフが通過していった。それを確認し機体を左にロールさせつつスロットルを全開にする。離れて行くフォッケウルフの背に機首を向け、機関砲を射撃した。
曳光弾が敵機の背に吸い込まれていく。フォッケウルフは火を噴き、部品をばら撒きながら降下していく。風防を飛ばしてパイロットが脱出したのが見えたが、無視した。
俺が二機のフォッケウルフを撃墜する間に、マリカもユンカースを二機墜としていた。残った敵は四機。奴らは抱えていた爆弾を全て投棄し旋回を始めた。不利とみて離脱し始めたのだ。
「逃げていくわ。追う?」
「いや、二人で六機撃墜なら上出来だ。燃料も半分しか入れてないしな。帰投しよう」
「了解」
連中が爆弾を落とした位置を確認する。民家や商業施設には落ちていなかった。小麦畑の真ん中に大穴が開いていたし、果樹園のビニールハウスが盛大に燃えていたのだが、この程度で済んだのは幸いであろう。
『敵機は逃亡した。帰投する』
ニルヴァーナが無線で指示している。高高度での戦闘も終了したようだ。
「上も終わったな」
「ええ。多分、八機撃墜したわ」
「多分か?」
「そう。私だって戦ってたからね。見てないわよ。通信から判断したの」
「なるほど」
目が異常なほど良いマリカでも、自分が戦闘中では他の空域まで気が回らないらしい。しかし、何事も無ければ9000メートル以上の高空での戦闘結果まで確認できるのだろうか。彼女は俺の右翼すぐ後ろのポジションに就いた。これは、ロッテと呼ばれる二機編隊になる。俺たちはその隊形を維持しつつ、基地へと向かった。
【機体解説】
B17
フライングフォートレス(空飛ぶ要塞)と名付けられたの米軍の重爆撃機。四機の発動機に排気タービン(ターボチャージャー)を備えていたため、爆撃機としては高速で良好な高空性能を有していた。欧州戦線ではドイツ爆撃で活躍。日本ではB29が有名ですが、ドイツではこいつが恨まれているのではないかと思います。
防弾に優れ爆撃機としては高速であったため、太平洋で日本軍は大いに苦戦した。零戦の20ミリでも撃墜は困難だったらしい。応急として37ミリ戦車砲を搭載した二式複戦〝屠龍〟や一〇〇式司偵がラバウルに送られたが、単発式の為十分な戦果は得られなかった。
最も多く生産されたG型の最高速度は524キロ、爆弾搭載量は5806キロ。日本軍には難敵でしたね。
P47
プラットアンドホイットニー製R2800ダブルワスプ搭載の重戦闘機。2000馬力級のダブルワスプはヘルキャットやコルセアなどの海軍機にも搭載されていた。P47には排気タービンが装着され高高度性能が優れていた。更に、12・7ミリ機銃8丁の重武装。最高速度はD型で689キロ、N型で735キロにも達した。ただし、戦闘重量が7トン以上あった為、運動性や上昇力はイマイチだった。ちなみに、一式戦闘機二型は約2590キロ。スピットファイア(グリフォン搭載型)は3889キロ。普通にデカすぎるって思う。
Ju188
ドイツ軍の双発爆撃機。対戦初期の主力爆撃機だったJu88の改良発展型。空冷星型のBMW801と液冷V12のユンカースJumo213のどちらでも改造なしで取り付けられるよう設計されていた。日本ほどではないにせよ、ドイツでも発動機の調達には苦労してたようですな。
外見上の特徴は、操縦席と機首部分を一体化させたたまご型のガラス風防を備えている事と、防御用火器を増加した事。作中でのマリカのセリフで「風防に段差がない」とはこの事ですけど、よく見えたと作者も感心しております。最高速度は499キロ、爆弾搭載量は3トンです。なかなかの高性能機ですね。
Fw190
主力機であるBf109は高性能であったが、エンジンの供給は不十分で、主脚の幅が狭い事などから着陸事故が相次いだ。そこで、Bf109の補助戦闘機として開発されたのがこのFw190である。
整備性の良い空冷星型エンジンを比較的余裕のある機体に搭載したこの戦闘機は、高性能であり操縦性に優れていた。配備されたFw190は英軍を圧倒したが、そのエンジンBMW801は高度6000m以上で急激に出力が低下するという欠点を抱えていた。そこで、エンジンを液冷のJumo213に換装した改良型がD型である。直径が大きく全長が短い星型エンジンから、細長いV12へと変わり、機首が細長くなっていることが特徴。作中ではマリカが「機首が短い」と指摘してましたね。
BMW801搭載型がFw190A。戦闘爆撃機型がF。ユモ搭載型がDです。五式戦が液冷から空冷に換装されたのに対し、この機体は空冷から液冷に換装された訳です。色々興味深いですな。ちなみにA型の最高速度は670キロ(A5)、D型は698キロ。水メタノール噴射装置を使った場合は732キロです。
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