第6話 オベロンの街の特盛カフェ
俺はフルフェイスのヘルメットを被り、皮手袋を着けた。彼女も持参していたジェットヘルメットを被り、これも持参していた皮手袋を着ける。
「準備がいいんだな」
「ええ。その場所、狙ってましたから」
その場所とは、ニンジャのタンデムシートの事だろう。そういえば、今まで二人乗りをする機会なんてなかった。
「どこに行く?」
「美味しいごはんが食べられるところ。大盛りを出してくれるところ」
「大盛り?」
「ええ。私、結構たべる方なの。ドン引きしないでね」
「大丈夫だ。俺はどちらかというと、よく食べる元気のいい女性が好きだな。ダイエットだとかでてんぷらの衣を剥がすとか、握り寿司のシャリを残すとか、そういう下品な食べ方をする女性とはお付き合いしたくない」
「そうよね。私も嫌。お金を払ったから何をしてもいいって事じゃない。最低限のマナーは必要でしょ」
「そう思うよ。じゃあ、何処へ行くかな? 宇宙海賊はどう?」
「いいわね。そこにしましょ」
俺はライムグリーンのニンジャに跨り、サイドスタンドを上げる。そしてクラッチを握り、セルを回す。グオオオン! と大きな音をたててエンジンが始動した。俺はアクセルを数回あおり、軽く暖機運転する。
エリーナに向かって軽く頷くと、彼女はタンデムステップに足をのせ、慣れた動作でタンデムシートに跨った。そして、豊かな胸を俺の背に押し付ける。
「いいわよ。出して」
俺は彼女の言葉に頷いた。シフトペダルを踏みこみ、ギアをローへ叩き込む。そしてニンジャを発進させた。
甲高いエキゾーストノートを響かせながら、夕暮れの田舎道をひた走る。夕暮れと表現したが、正確なところこの世界には夜がない。薄暮の時間帯と白昼の時間帯が交互に訪れるだけなのだ。一応、戦闘は白昼にという決まりがあるだが、薄暮の時間帯に爆撃を受けたこともあるらしい。そのような場合はペナルティを課せられるが、攻撃する事は可能だ。
さて、その街は基地より東、約20キロの距離にあり、俺たちはオベロン、もしくはオベロンの街と呼んでいる。ここは基本的に商業の街である。利用客は基地関係者が多いのだが、周辺の住民も利用するショッピングモールや商店街もある。そして特徴的なのは、基地関係者の為の歓楽街が併設されている事だ。料亭や居酒屋はもちろん、バーやスナック関係も多い。そして、性的なサービスを提供している風俗店に、ズバリ本番を提供する娼館も何軒か存在している。いかがわしい店が多い印象であるが、何故か当局が取り締まりをしているという話は聞いた事がない。
俺は約20キロの、ほぼ直線の道を約20分で走破していた。案外安全運転をしていると我ながら感心してしまう。エリーナはというと、当初は俺にしがみついていたが、慣れてくるとトラクターを運転しているオヤジに声を掛けたり、スクールバスの子供に手を振ったりしていた。鼻歌混じりで機嫌は良さそうだ。
商店街の外れにある駐輪場へバイクを停めた。そこから歓楽街との境目にあるカフェ宇宙海賊へと向かった。
この店はオベロンの街の名物店で、宇宙関係の名をつけた特盛料理を出す店として有名だ。
エリーナははしゃぎながら、俺の右手を掴んで店内へと入る。まだ時間が早めな為か、店内に他の客は見当たらなかった。
店内はまるで、宇宙船の中にでもいるような装飾が施されているのだが、中のスタッフはというと海賊の衣装で統一されている。宇宙の海賊ではなく大航海時代の海賊だ。この辺のギャップも人気の秘密らしい。
黒髪でポニーテールの大柄な女性スタッフが水とメニューを置く。そしてウィンクしながら俺にそっと耳打ちをする。
「可愛い娘。でも、胸は私の勝ちね」
などと言いながらその豊満な胸を揺らす。俺は苦笑いをしながら、手を振る。今日は間に合っているというサインだ。彼女は怪しく笑いながら、奥へと戻っていった。
「あのウェイトレス。お知り合いなの」
「まあな」
「ふーん。どんなお知り合いなのか、興味があるわね。たっぷりと尋問してあげる」
「それは困る」
エリーナは俺とあのウェイトレス、
「奈美さん、いきなり不機嫌になっちゃいました。これ、祐さんの責任ですからね」
「俺が誰と食事をしようが彼女には関係ないだろう」
「そう。でもね。祐さんのせいで、今夜の私は地獄を見るんです。絶対責任を取らせますからね」
「そりゃ困るな」
「嘘。全然困ってない。凄く嬉しそう」
「ふふ」
「笑ってないで早く注文して。とりあえず、私と奈美さんのオレンジジュースもよ」
「わかってるさ」
俺達は木星ちらし寿司、エリーナは火星激辛ラーメンを注文した。ちらし寿司は五人前、ラーメンは三人前である。勿論、二人のオレンジジュースも忘れない。
「繰り返します。幸せジュピターちらし寿司五人前がおひとつ、マーズファイト激辛ラーメン大盛り三玉がおひとつ、オレンジジュース(並)がおふたつ、以上でよろしいでしょうか」
「ああ」
俺は頷いた。小柄な彼女、
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