第5話 マグノリアとニルヴァーナのメカニック講座その①機関砲編

「整備班長のマグノリアです」

「基地司令のニルヴァーナだ」

「何故、こんな場所に引っ張り出されたのでしょうか?」

「意味不明だ」

「もしかして、司令の悪ふざけですか?」

「いや、私もこんな面倒事は御免こうむりたい」

「ふむ、それではあの……馬鹿作者の策略でしょうか?」

「マグノリア。その言い方は不味いぞ。奴はアレでも、作中では神にも等しい存在だ。逆らえば、どんなコメディアンに仕立てられるか分かったものではない」

「なるほど。彼の事は無視して本題に入りましょう。一式戦闘機について解説せよとの指示です」

「だな」

「大戦期、旧日本陸軍の主力戦闘機です。試作名称はキ43。正式名称は一式戦闘機、愛称が隼です」

「大戦前の主力機97式戦闘機は、当時としては優秀な機体だったのだが、固定脚でもあり、引き込み脚を採用した欧州の新鋭機と比較すれば見劣りした」

「bf109(ドイツ)やスピットファイア(イギリス)です」

「それらと同等の戦力を保持すべく、いわゆる軽戦と重戦の二機種の開発が始まった」

「当時は機関銃搭載型と機関砲搭載型と言われました。これが後に、軽単座戦闘機と重単座戦闘機に名称が変わります。軽戦が一式戦闘機〝はやぶさ〟で、重戦が二式戦闘機〝鍾馗しょうき〟として正式採用となります。隼は開戦に間に合わせるため、手堅い設計だったと言われています。対して鍾馗の方は、色々な新技術を盛り込んだ、日本としては革新的な機体でした」

「初期の隼は……貧相だったらしいな」

「はい。武装は7・7ミリ機銃二丁で貧弱だったし、最高速度は500キロに届かず、旋回性能は97戦に劣り、唯一航続距離だけが及第点だった」

「そうらしいな。旋回性能では垂直方向、いわゆる巴戦でやっと97戦に勝ると」

「そうですね。しかし開戦に備えるため、長距離を飛べる戦闘機を欲していた陸軍は、この不完全な隼を正式化し量産しました」

「細かい改修を積み重ね、二型ではかなり完成度が上がったようだな」

「はい。武装は12・7ミリに強化されました。操縦性と旋回性能に優れ、射撃時の安定性、命中率ともに優秀。そして防弾装備も追加され完成度は非常に高くなりましたが?」

「が?」

「改良された二型でも、発動機の出力は1150馬力で初期のものより200馬力アップどまり。欧米の主力機が2000馬力級へと進化していったのと比較しても寂しい限りです」

「機体の火力と速力、防御力を上げるためにはやはり発動機の出力が必須だからな」

「その通りです」

「ちなみに、一型の7・7ミリは順次、12・7ミリの機関砲ホ103へと換装されていった」

「現地で換装された機体も多かったと聞きます」

「らしいな。ところで、陸軍では12・7ミリのホ103を機関砲としていたのだが、一般には口径が20ミリ未満のものを機関銃、以上のものを機関砲と呼称している」

「これは、20ミリ以上のものは榴弾(炸裂弾)が使用できますから、直感的に理解しやすいですね」

「英米や自衛隊などはこれだ。しかし、この区分ではない軍もあった」

「はいそうです。日本陸軍では、口径11ミリ以下のものを機関銃、それ以上ものを機関砲と呼称しました。しかし、昭和11年以降は炸裂弾を使用するものを機関砲、そうではないものを機関銃とした。つまり、炸裂弾を使用するホ103は12・7ミリですが機関砲です」

「日本海軍では40ミリ以上を機関砲、それ未満を機関銃とした。零戦や紫電などに搭載された20ミリも機関銃、艦船に搭載された25ミリも機関銃だった」

「ちなみに、旧ドイツ軍では30ミリ以上が機関砲、未満が機関銃です」

「ややこしいな」

「はい。ややこしいです」

「ちなみに、香月の愛機である一式戦闘機は、12・7ミリの機関砲を二門、機首に搭載している」

「作中でも紹介しておりますが、ホ103、一式十二・七粍固定機関砲です。日本独自の炸裂弾であるマ弾(マ103)が使用できました。当初の機械式信管のものはトラブルが多かったようですが、空気式信管を採用した新型マ弾となり爆発事故は激減。生産効率も上がり、しかも信管部分の簡素化により炸薬量も増加して威力も上がりました」

「とはいうものの、新マ弾が実戦に投入されたのは1943年後半だ。所詮は12・7ミリであり、当時、主流となりつつあった20ミリには劣る」

「それでも隼は終戦まで、連合軍機相手によく戦ったと言えます」

「そうだな」

「一応、ホ103と他の機銃との主要緒元を紹介しておきます」


※ホ103、一式十二・七粍固定機関砲

 口径 12・7mm

 銃身長 800mm

 装弾数 ベルト給弾式270発(一式戦二型)

 全長 1267mm

 重量 23・0kg

 発射速度 800発/分

 銃口初速 780m/秒


※AN/M2(Cal.50 AN/M2)

 口径 12・7mm

 銃身長 91・44mm

 装弾数  ベルト給弾式380発(P51)

 全長 1450mm

 重量 27・85kg

 発射速度 700-850発/分

 銃口初速 884m/秒


「上が隼に搭載されている機関砲ホ103、下が米軍機に多く搭載されているAN/M2です。ホ103はAN/M2をベースとしていますが、航空機用として小型軽量化に成功していると言えます。初速が劣るのは、主に使用弾薬の違いです。陸軍では12・7×81mmSRを使用していました。これはAN/M2の12・7×99mm弾よりも小型軽量の為、発射速度に勝り、初速と威力に劣ります」

「何故、威力の劣る弾丸を使ったのだろうか」

「航空機搭載用としての軽量化が目的であったのでは?」

「なるほど。軽快な機関砲の方が使えると」

「恐らく。日本製の発動機は、やはり出力が劣りますので」

「次は一式戦一型に搭載されていた機銃を紹介しよう」


※八九式固定機関銃口径

 口径 7・7mm

 銃身長 732mm

 装弾数  500発(97式戦闘機)

 全長 1035mm

 重量 12・3kg

 発射速度 800-1100発/分

 銃口初速 820m/秒


「これは英国のヴィッカーズE型機関銃をライセンス生産したものです」

「それならスピットファイアと同じ?」

「いや、スピットはブローニング系のAN/M2ですね。英国機なのに英国開発の機関銃を使っていないので」

「なるほど。しかし、AN/M2なら12・7ミリ?」

「いや、7・62ミリ。AN/M2は7・62ミリで、元々は水冷式のブローニングM1917重機関銃がご先祖様です。この航空機搭載型がM1918になります。このモデルの改良型がAN/M2。M1918を50口径(12・7ミリ)に拡大したモデルがCal.50 Model 1918。これの改良型がCal.50 AN/M2です」

「つまり、航空機銃は7・7ミリも12・7ミリもM1918がご先祖様だと」

「はい。それに対して、現代も世界中で使用されている12・7ミリのM2重機関銃ですが、こちらはM1917を拡大したM1921が祖先です」

「つまり、これはこういう事か?」


M1917(水冷)→M1918(航空用)→AN/M2(7.62ミリ)

 ↓       ↓

 ↓      AN/M2(12.7ミリ)→ホ103

 ↓

 ↓→M1919(7.62ミリ)

 ↓

M1921(12.7ミリ)

 ↓

M2(12.7ミリ)


(注意:縦読みにした場合やスマホで表示した場合、正確に反映されない場合があります)


「はい。要するに、航空機用の12・7ミリ(AN/M2)はM2重機関銃の派生モデルだと思われがちですけれども、祖先は同じですが厳密には別系統モデルなのです」

「ややこしいな」

「そうですね」

「ところでマグノリア。こんな薀蓄うんちくを披露して、喜ぶ読者がいると思うか」

「まあ、いないでしょうね。作者の自己満足でしかありませんよ」

「だろうな」

「とりあえず、日本軍の20ミリ機関砲も紹介しておきます」


※ホ5、二式二十粍固定機関砲

 口径 20mm

 銃身長 90mm

 装弾数 ベルト給弾式150発(四式戦一型甲)

 全長 1444mm

 重量 37kg

 発射速度 750発/分

 銃口初速 735m/秒


※九九式二〇粍一号機銃二型

 口径 20mm

 銃身長 812mm

 装弾数 ドラム弾倉(零戦二一型60発)

 全長 1331mm

 重量 23kg

 発射速度 520発/分

 銃口初速 600m/秒


※九九式二〇粍二号機銃四型

 口径 20mm

 銃身長 1252mm

 装弾数 ベルト給弾式(零戦五二型125発、紫電改内200発、外250発)

 全長 1885mm

 重量 38kg

 発射速度 500発/分

 砲口初速 750m/秒


「ホ5は陸軍の機関で、ホ103の拡大版です。AN/M2の系統になります。対して九九式は海軍の機関です。こちらはスイスのエリコンFF(短銃身軽量型)およびエリコンFFL(長銃身型)のライセンス生産品となります」

「やはり、一長一短あるな。重量と発射速度、初速はトレードオフの関係にある」

「ですね。ちなみに、旧ドイツ軍ではエリコンFFをベースにしたMGFF機関砲を使用していましたが、やはり零戦と同じくドラム弾倉による装弾数の少なさや発射速度、初速の低さに問題を抱えていました。後に、マウザーMG151/20が開発され、ようやく問題は解決されました」

「そのマウザーは高性能だったのか?」

「はい。重量が42キロ以上あった他は高性能でした」


※MG151/20 機関砲

 口径 20mm

 装弾数 ベルト給弾式(FW190D9、250発)

 全長 1710mm

 重量 42・4kg

 発射速度 720-800発/分

 砲口初速 700-785m/秒


「この機関砲は日本にも輸入されました。三式戦闘機に搭載され活躍しています。当時のパイロットは、この機関砲の高性能ぶりに狂喜したようですね」

「12・7ミリのホ103と比較したら雲泥の差があるだろうな。しかし、重量増で飛行性能は下がったのでは?」

「そのようです。やはり重量の問題は大きい。では次に、フランスで開発された20ミリを紹介します」


※イスパノ・スイザHS.404

 M1/M2

 口径 20mm

 銃身長 1714・5mm

 装弾数 ベルト給弾式

 全長 2380mm

 重量 46・27kg

 発射速度 600-700発/分

 砲口初速 869-899m/秒


 AN-M3 (T31)

 口径 20mm

 銃身長 1333・5mm

 装弾数 ベルト給弾式

 全長 1974・9mm

 重量 45・13kg

 発射速度 750-850発/分

 砲口初速 853-869m/秒


「こちらは初期のエリコンFFSが元になっています。先に紹介したエリコンFFLよりも砲身が長い超長砲身型になります」

「だから、デカいし重いんだ」

「はい。初速も発射速度も優秀ですけれども。数値は米国製のM1/M2、短砲身型のAN-M3を乗せています」

「しかし、こんなデカいのを4門も搭載したハリケーンがヨタヨタ飛んでいたとかの話は、実話だったのか」

「でしょうね。2000馬力級でないと搭載は無理。1000馬力級のハリケーンではきつかったでしょう」

「なるほど。ところでマグノリア君。機関砲の解説だけで約4000字も使っているんだが?」

「仕方ありませんねぇ。これでも相当簡略化しているのですが」

「搭載位置の話や同調装置の話もしていない」

「それは次回に」

「エンジンの話はどうする?」

「それも次回以降という事で」

「仕方ないな。次は同調装置。胴体に機関砲を搭載して、どうしてプロペラが無事なのか? その仕組みについて話をする。次の次は燃料のオクタン価と水メタノール噴射装置の話だ」

「さらに、空冷星型エンジンと液冷V型エンジン。V型には倒立型もあります」

「星型は9気筒と複列の14気筒、18気筒だな」

「はい。では、次回の更新をお楽しみに」

「楽しみにしてる読者が果たしているのか?」

「それは言わないようお願いします。できれば、本編の合間に少しずつ薀蓄うんちくを挿入するのが良さそうですが」

「だろうな」

「ニルヴァーナ様。次回はきっと、香月君と赤毛の彼女のムフフな♡♡♡ではないでしょうか?」

「そうだな。多少のお色気も必要だろう。特に、おっぱいが揺れる様を希望する読者はいるはずだからな」

「なるほど。おっぱいですか。司令では少々物足りない……いや、睨まないでください」

「世間にはな、ロリや貧乳の民を好いている者も多い」

「多いのですか?」

「多いのだ! 巨乳趣味の者よりずっとな!!」

「それは初耳です」

「ところで貴様はどうなのだ? 巨乳好きのおっぱい星人なんだろ?」

「いえ、女性に興味はありません」

「まさか! 腐女子が大好きな!?」

「それは秘密です。そっち系の方なら、既に私と香月君のカップリングは終わっているはず」

「釈然としないな」

「ではまた」

「おい。勝手に終わるな」

「さようなら」

「ぐぬぬ……次回は♡♡♡らしいから楽しみにしておけ。じゃあな」

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