第2話 赤毛のエリーナ

 程なく、基地の滑走路が見えて来た。滑走路といっても舗装してあるわけでもない、前面に青々とした芝生が敷いてある不整地滑走路という奴だ。


 フラップを開き降着装置を出す。そしてスロットルを絞り、機体を降下させた。車輪が接地した瞬間、機体が上下に揺さぶられる。毎回この揺れ具合な訳で、脚が折れるんじゃないかと心配してしまうのだが、幸い、折れたことはない。


 機体が停止したところで風防を後ろへと開いた。駆け寄って来たメカニックに機体を預け、俺は詰所へと向かう。


香月かづきゆう、戻りました」

「お疲れ様。戦闘記録の確認をお願いね」

「はい」


 受付のエリーナはいつも通りの笑顔だ。赤毛でそばかすが多いのだが、グラマーで中々蠱惑的な雰囲気がある。


 俺は、彼女が差し出した用紙に目を通す。


 空中目標撃破2

 アシスト1

 クリティカルヒット3

 地上目標撃破0

 海上目標撃破0


 獲得GP2600


 この数値が今日、俺が挙げた戦果だ。

 これが優秀なのかどうか、自分にはわからない。他のパイロットの成績を見たことはないからだ。ただし、生きて帰って来た事は重要だと考えている。


「獲得ポイントは既に反映されています。今夜は御馳走ですか?」

「どうするかな? 君も一緒にどうだい?」

「本当ですか?」

「ああ。構わないよ」


 ナンパ成功と両手を上げて喜びたいところだが、俺は違和感を覚えていた。彼女は〝ゴースト〟なのだ。


 実は、エリーナには影がない。彼女の他にも、事務職やメカニックの大半は影というものがないのだ。

 普通に話は出来るし、体に触る事だってできる。あの、エリーナのブラのホックを外したり、その豊満な胸を揉んだ奴だっているのだ。しかし、彼女には影がない。

 ある男が、ゴーストの女性を誘ってホテルへ行ったことがあった。男は彼女の服を脱がせ、抱き合ってベッドに倒れ込んだのだが、女の姿はそこで忽然と消えてしまった。

 街には娼館もあるのだが、そこの女性も大半がゴーストらしい。ある娼婦に惚れ込んだ男が、その娘を娼館から連れ出したことがあった。一緒に暮らそう、結婚しようと。しかし、男の部屋へ入った途端、その娘の姿は消えた。


 ゴーストも食事はするしセックスだってできる。しかし、ある一線を越えるとその存在が消滅してしまうのだ。


 この不可解な世界に存在する奇妙な現象。

 俺は、このゴーストという存在について、その意味を知りたいと思っていたのだ。つまり、エリーナとのデートは願っても無いチャンスという事になる。

 

 エリーナは折りたたんだメモ紙を俺に差し出し、俺に話しかける。


「司令がお待ちです」


 彼女はウィンクしながら上を指さした。二階に居座っているボスが、俺に用があるらしい。その後、連絡を寄こせというわけか。


 あまり気乗りはしないが、俺は二階の指令室へと向かった。

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