蒼天の覇者

暗黒星雲

一式戦闘機三型

第1話 ドッグファイト

 死角というものはある。いくら周囲に気を配っていても、見えない時は見えないものだ。自機の死角から接近してきた敵機の放つ曳光弾が機体を掠めた。次いで数発の弾丸が命中した。左主翼に幾つかの穴が開く。

 俺は機体をダイブさせ、奴の射線をかわした。上昇していくグレーの単発機が見えた。アレはドーラだ。フォッケウルフFw190D9……厄介な相手だ。最高速度は時速700キロメートル以上出る。俺の隼より100キロ以上も速い。


 逃げるか、それとも戦うか。

 お互い僚機のいない一対一の遭遇戦。仮に逃げたとしても速度差があり逃げ切れるとは限らない。ならば答えは一つだ。返り討ちにしてやる。


 俺は更に機体を降下させ、地表スレスレの低高度を飛ぶ。そして、ドーラの位置を確認した。

 奴は上空を旋回しつつ、俺の後方へ回り込もうとしていた。

 旋回性能ではこちらの勝ち、速度と上昇力ではドーラの勝ち。頭を押さえられているこの状況では分が悪い。


 地上スレスレをまっすぐに飛ぶ。敢えて狙いやすくしてやっているのだが、果たして奴は乗ってくるのだろうか。

 若干スロットルを緩め速度を落とす。俺は何度も後方を振り返り、奴の位置を確認する。


 来た。

 真後ろにグレーの機体。急降下しながら俺の隼を狙っている。


 遠距離で撃って来るのか。それとも引き付けてから撃って来るのか。俺は引き付けてから撃ってくると読んだ。

 これは勘だ。外すと痛い目に遭う。しかし、逆転するためには攻撃のタイミングを読む必要がある。


 奴は更に速度を上げ、俺の背に迫って来た。ぼんやりしている素人だと思ったか。確実に命中させる為に目いっぱい接近してきた。


 ここだ!


 奴が引き金を引いた瞬間、俺は操縦桿を引き機体を起こす。そしてスロットルを全開にし、更に水メタノール噴射のレバーを引いた。これは、一時的にエンジンの出力を上昇させる効果がある。


 隼は元々、低速域での加速性能に優れている。それが、この水メタノール噴射による出力上昇により更に鋭い加速性能を見せた。奴の放った弾丸は機体後方の地面を穿った。

 

 機関砲を撃ちながら、ドーラは隼の下を追い越していく。俺は機体の姿勢をちょいと下方に修正し、引き金を引いた。


 ダダッ!


 ほんの一瞬の射撃。

 しかし、それで十分だった。


 光像式照準器の中で、12・7ミリの機関砲弾はドーラの操縦席をぶち抜いていた。奴はそのまま地面に激突し、爆発炎上した。


 俺は上昇しながらその様を眺める。

 緊張から解放され一息つきながらも、俺はあのドーラの姿を心に焼き付けた。ああはなりたくないと。


 俺は隼を基地へと向けた。

 キ43、一式戦闘機Ⅲ型。隼の愛称で親しまれている時代遅れの戦闘機。今、この空で俺の命を預けている相棒だ。 

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