第35話 合成魔石

 何にもやる気が起きない。

 私はベッドでグズグズとしていた。

 昨晩はほとんど寝てない。

 寝るとヒロインと攻略キャラ達が邪神を倒せと叫んで私を討伐しようとしてくる。

 最悪なのはサウンさんに止めを刺される夢。

 何度飛び起きた事か。


 私はどうなるの。

 シナリオの通りに魔王の次に倒される運命なの。


 ドアが乱暴に叩かれる。

 もうどうなっても良い。

 ドアが開けられ、サウンさんの顔が見えた。


「ラメレイ」


 私は起こされ頬を叩かれた。


「痛い」

「トゥレアに全て聞いた。邪神の卵なんだって。でもな、今まで人の為になる事をしてきたろ。俺はそのラメレイを信じる」


 サウンさん、ありがとう。

 そうね、今まで良い事を沢山してきたわ。


「それとな、トゥレアに逆ハーに入れと言われたが、断った。あの女が聖女でも俺は従わない。俺が従うのはラメレイだけだ」


 サウンさん。

 そうよ、くじけるものですか。

 未来は未定よ。

 今までしてきた事で、ゲームとは筋書きが変わったわ。

 その証拠にイベントのいくつかは私がこなした事になっている。

 私は、邪魔力を使わない。

 そうすれば邪魔力は成長しないと思う。

 邪神にならずに済むかも。


 ううん、絶対に邪神にならないわ。


「元気が出たみたいだな」

「ありがとう。すっかり元通りとはいかないけれど、なんとかしてみるわ」


 何をしようかしら。

 邪魔力の事は忘れるほど仕事がしたい。


 私は冒険者ギルドに顔を出した。

 塩漬けされている依頼を見る。

 商人の護衛が不人気なようね。

 どうしてかしら。


「これはラメレイ様。何か御用でしょうか」


 考えている私にギルドの職員が声を掛けた。


「商人の護衛が不人気なのはどうして?」

「それですか。モンスターが強くなって商人を守るのは至難の業になりました。守れる実力のある冒険者は、モンスターを倒したほうが儲かるのですよ」


 なるほどね。

 そうだわ。

 モンスターが活性化して、下火になっている流通を活性化しましょう。

 高額な冒険者を雇う為に、商人の依頼にお金を補助するのは、現実的ではないわよね。


 それに高額な冒険者がモンスター退治をしなくなったら、モンスターの被害が増える。

 冒険者の底上げが必要ね。


「ねぇ、冒険者を強くするにはどうしたらいいかしら」


 私はサウンさんに尋ねた。


「そうだな。武術は修行が大切だ。一日二日ではどうにもならないな。あるとすれば魔術だろう」

「それにはどうしたら」

「質のいい触媒の魔石を、確保する事だな」


 魔石を合体させる技があったけど、あれは邪魔力のなせる業なのよね。

 たぶん、二つの魔石の境界を消したんだと思う。

 あれは駄目ね。


 駄目なら溶かしてしまえばいいのよ。

 そういえば、ハンカチは魔石の染料で作ったのよね。

 魔石の代わりに使えないかしら。


 駄目ね、魔石で染めた布は多くの人が使っている。

 触媒として使えるのなら誰かが気づいているはずよ。


 真珠養殖の映像が脳裏に浮かぶ。

 再結晶させるのに炉でなくて生き物を使ったらどうかしら。


「何でも溶かして、結晶にする生き物なんて、いたかしら」

「結晶化は無理だが、何でも溶かすのならいるぞ。スライムだ」

「ありがと。何となく見えたわ」


 要は魔石を異物としてスライムに認識させれば良いって事よね。

 溶かすけど消化されない。

 そういう物体にすればいいのよね。


 ギルドの資料室でスライムに関する本を読んだ。

 スライム除けに使うニガナシスという草があるようね。

 これをスライムは嫌がるらしい。

 無理に食わせるとスライムの体内で玉になると書いてあった。


 どうやら使えそうね。

 これと魔石の染料を混ぜてスライムに食べさせてあげましょ。


 ギルドでスライム捕獲の依頼を出した。

 ニガナシスを塗った水槽でスライムを飼う。

 魔石の染料とニガナシスを混ぜた物をスライムの上に振りかけると、吸収された魔石の成分がスライムの中で結晶になった。

 成功だわ。


「お願い」


 サウンさんがスライムにトングを突っ込んで、結晶化された魔石を取り出した。


「【ウインド、魔力よ風になれ】。使えるな」


 風が起こり、私にはその風が邪魔力を吹き飛ばしたように感じられた。


「やった。養殖魔石が完成したわ」


 公共事業の買取でクズ魔石は余っていたので、この事業にこぞって貴族は関心を示した。

 それはそうよね。

 ゴミがリサイクルされるんだから。


 質のいい大粒の魔石が格安で出回り始め、凄腕でない冒険者も護衛として活躍できるようになった。

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