第5章 帰還編

第33話 赤い糸

 やる事が一杯ね。

 順番に片付けていきましょ。

 まずは空売りしたキルタンサスを清算。

 ラメレイ商会の私の部屋が金貨で溢れた。

 ざっと10万枚超よ。

 1億Aの儲けね。


 床が抜けないかしら。


 これを商業ギルドに入金するだけでも一仕事だわ。

 襲って来る人はもういないので、警備の冒険者に運んでもらいましょう。


「おっ、すごい金貨だな」


 サウンさんが物音を聞きつけて、血相を変えて部屋に入ってきて、金貨の山を見て目を丸くする。


「ええ、商業ギルドで出しても良かったのだけど、一刻も早くあいつと縁を切りたかったの」

「今後もこういう事があると物騒だな」


「そうね。警備の人を専門に雇おうかしら」


 それも良いけど、地域貢献もしたいわ。

 自警団を作るなんてどうかな。

 この商会を中心に巡回してもらえば、店も守れて地域にも貢献できるわ。


 冒険者の半数をお供に商業ギルドへの往復を繰り返した。

 ふう、部屋がすっきり。


 次は神官にイベントを聞きに行くのよね。

 教会は治療でお世話になったので勝手知ったる庭のようなもの。

 中に入り馴染みの神官を捕まえた。


「こんにちは、古戦場の開拓について聞きに来たんですけど」

「しっ、こんな所で秘密を漏らしてもらっては、困ります。奥へどうぞ」


 応接室に通された。


「どなたに開拓の話をお聞きになりました?」

「トゥレアさんに聞きました」

「ああ、予言者ですか。彼女にも困ったものですね。極秘事項が筒抜けです。来月の初めからアンデッドの大規模討伐が始まります。絶対に漏らさないで下さいよ。そうでなくても聖水の材料は高いんですから」

「買占めが起こるのですね」

「ええ、ですので、今少しずつ材料の買い取りを増やして、聖水を増産しているところです」


 ヒロインはたぶん買占めに入っているでしょうね。

 話し合う必要がありそうね。


 私がヒロインを呼び出したところ、彼女は攻略キャラ達を連れて現れた。


「何よ、呼び出して」

「あなた、聖水の材料を買い占めているでしょ。買った金額の倍を私が払うわ。材料を教会に全て寄付しなさい」

「何でそんな事をしなくちゃならないの?」


「いい、これはあなたに得のある事よ。寄付すれば名声が手に入るわ。それに買った倍のお金がね」

「騙されてはいけません。たぶん寄付した後にお金をラメレイが払ったと言いふらすに違いない」


 そう言ったのはオロスタキス。


「そんなみっともない事はしないわ」

「神に誓えますか?」

「ええ、神に誓います」


「駄目よ。この女は邪悪だから、信用できないわ」


 そうヒロインのトゥレアが言う。


「めんどくさいわね。もし、言う通りにしたら、橋渡ししてもいいわ」

「何の?」


 もちろん、ヒロインが好きな相手と結ばれる為よ。

 でもそれをここで言うと修羅場が起きそう。

 一人の女に4人の男ですもの。


「鈍いわね。赤い糸よ」


 前世の例えを出したけど、異世界人だとはばれないでしょう。

 どこで聞いたかと問われたら、少数民族の言い伝えとでも誤魔化しておきましょう。


「ああ、あれね。分かったわ。その条件で手を打つわ」

「赤い糸がどこに繋がっているのか後で教えてね」

「ええ」


「赤い糸。何の事だ。カイエンの事じゃないだろうな」


 ハオルチア王子が騒ぎ出した。


「乙女なら持っているものよ。私のは一回切れたけど」

「何の事か分からないが、乙女に関係しているのなら仕方ない」


「お金を振り込むわ。手紙を頂戴」

「ええ、赤い糸の事よろしくね」


「赤い糸って何だ。みんな知ってるか。なぜ俺を見る」


 兄のカイエンがそう言った。

 見たのはあなたが赤毛だからよ。


「僕が思うに、魔術が関係していると思うな。魔法かも」

「俺が知っている限り、そのような魔術はないな」

「では魔法ですか」

「ラメレイ、話せ」


「推理は後で帰ってから、やったら。もしくはトゥレアに聞きなさい。私はノーコメントよ」

「みんな、帰るわよ。言っておくけど乙女の秘密は喋れないから」


 こうして、ヒロインとの話は終わった。

 一日も経たずに手紙が届いた。

 第一候補と書かれて、ハオルチアと。

 第二候補、カイエン、セダムと。

 第三候補、オロスタキス、ガラムと。

 番外、サウンとある。


 もう、なんて気が多いのよ。

 どうやらヒロインは戦士タイプが好きなようね。

 サウンさんに気があるのは間違いないわ。

 番外とあるけど第一候補に入っているんじゃないかしら。

 油断ならないんだから。

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