第32話 結末
すっかり、回復しました。
魔力が徐々に減っていくという以外にはね。
各方面には非常にご迷惑をお掛けしました。
体調の事より、サウンさんが直視できない。
キスしたのよね。
考えるだけで赤面してしまう。
それからスキンシップの回数が確実に増えている気がする。
悲し気な顔を見せると、サウンさんが抱きしめてくるのよ。
嫌じゃないのだけれど、少し恥ずかしい。
でも、包まれていると安心する私がいる。
日本の事を思い出すたびに、悲しい顔をすると、抱きしめられるものだから、日本の事を思い出さなくなってきたわ。
警備兵達とスピラリス商会に乗り込む。
スピラリス商会はあくどく稼いでいるのでしょう。
立派な店で何十人もの従業員が忙しそうに立ち回っている。
「会頭を出せ。誘拐容疑で逮捕する」
警備兵の責任者が声を上げる。
「やれやれ、言いがかりは、程々にしてもらいたいものですな」
でっぷり太った禿げた親父が出て来ました。
こいつが本当の黒幕なの。
証拠は揃えてきたので安心して見てられる。
「真偽官、よろしくお願いします」
金糸の刺繍が入った服を着た男性が前に出ました。
真偽官なのでしょう。
「【真偽判定。ラメレイさん、キルタンサスに誘拐されましたか?】」
「はい」
真偽官の質問に、私は自信を持ってはっきりと答えました。
「真実です」
「ふん、知っているぞ。真偽判定はその者が信じていれば真実と出る。その者はそう思い込んでいるだけだ」
「【真偽判定。ラメレイさん、なぜキルタンサスだと思いました?】」
「私のスキルに名前が出たからです」
「真実です」
「聞いたか。スキルを疑うという事は神を疑うという事だ。逮捕しろ」
警備兵の責任者が命令を下した。
「ええい、こうなったら。警備兵を皆殺しにしろ。ラメレイという女は真っ先に殺せ」
どこからか、体格の良い男達が武器を持って現れました。
「しょうもない奴らだな」
サウンさんが剣を抜きます。
「サウンさん」
「【ウインドブースト、魔力よ風になって強化せよ】」
サウンさんが、電光石火のスピードで動き、男達を叩きのめしていきます。
私はその様子をうっとりと見つめました。
男達の一人が私に近寄り剣を振り上げました。
「きゃっ」
「ラメレイ!」
サウンさんが私を庇い、鮮血が飛び散る。
「サウンさん、しっかりして」
駄目よ。
こんなのは許さないわ。
すると不思議な事に白い光が私から出てサウンさん包み込みました。
サウンさんの傷が治ったようね。
えっと、何が起こったの。
回復の魔術を発動したのだと思う。
魔力は徐々に減っているけど、まだ沢山残っているから、きっと想いが溢れて無詠唱したのよね。
「はっ、致命傷を負ったと思ったんだがな」
「無詠唱で魔術が発動したみたい。ほら、私って魔力が余っているから」
「君は命の恩人だ」
「いえ、サウンさんが私を庇ったからこうなったので、お相子だわ」
サウンさんが私を抱きしめます。
ちょっとみんなが見ているわ。
恥ずかしい。
「ぐはっ、わしを誰だと思っている」
男達は全て倒され、会頭が組み伏せられました。
「黙れ。容疑に殺人未遂も加わったな。おい、キルタンサスを探して来い」
「はい」
ほどなくして、キルタンサスも連れて来られました。
「私は無実だ」
「ほう、根拠は?」
キルタンサスの言葉に責任者が弁解を聞くみたい。
「ラメレイが好きだからだ。手違いはあったが、告白するつもりで、連れて来ただけなんだ」
「真偽官」
「【真偽判定。ラメレイさんを好きですか】」
「はい」
「真実です」
そんな想いを告げられても、お断りだわ。
「私は嫌いです。顔を見たくもありません」
「横恋慕して誘拐したというわけだな。罪状に変化はないな。引っ立てろ」
「おい。きりきりと歩け」
「私は、無実だ!」
そこにヒロインが現れた。
「何で抱き合っているのよ。いやらしい」
「別に私がどうしようと勝手だわ」
「何でいつも先を越すのよ。悪徳商会を懲らしめて、財産を没収するイベントだったのに」
「こんな汚い金は要らないわ。好きにしなさい」
「えっ、いいの?」
「どうぞ、どうぞ。その代わりイベントやらの情報を教えて」
「差しさわりのないのなら。古戦場の開拓イベントか後少しで始まるわ。気になるなら神官に確認すればぁ。極秘案件を答えてくれるならね」
「ありがと、聞いてみるわ」
「何よ。白々しくお礼なんか言っちゃって。悪役令嬢らしくしなさいよ」
悪役令嬢ってこういう時はなんて返せばいいのかしら。
「おー、ほほほっ。わたくし教会には、少しばかり強力な伝手がありますの。ご丁寧にありがとうと言ったまで」
「きっー、また貴族の特権を使うと言うのね」
「仕方ありませんわ。産まれた時から高貴なんですもの。ごめんあそばせ」
こんなところで良いかしら。
今日は魔術も発動できたし、魔力が減る前に魔術の特訓をしないとね。
忙しくなるわよ。
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