第29話 誘拐

 頭にすっぽりと布の袋を被せられた。

 えっ、誘拐だわ。

 頭はすっきりと晴れ渡り、フル回転し始める。

 犯人はきっとスピラリス商会ね。


 私の株価をチェックする。

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名前    レベル  現在値   安値    高値

ラメレイ  LV12 3128A 3114A 3147A

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 良かった大暴落はしていない。


「分かっているな、声を出すなよ」


 背中に刃物みたいな物が押し付けられる。


 声から大体の人数を把握する。

 男が3人ね。


 周りにいる男達の株を空売りする。

 これで犯人名簿の出来上がりよ。

 ハンカチを男達に気づかれないように出して握る。


 手足を縛られ、男に担がれた。

 手に握ったハンカチを必死の力で千切る。


 そして破片を地面に落とした。

 これで良い。

 きっとサウンさんが助けに来てくれるはず。


 馬車に乗せられた。

 後ろ手で探ると板に割れ目がある。

 ハンカチの破片を割れ目から落とした。


 ハンカチが足りるかしら。

 街の外には出ないようで、馬車はすぐに止まった。


 担がれて馬車から降ろされて、しばらく移動して床に投げ出される。

 ちょっと痛いじゃないの。

 袋が外された。


「目つきはきついが良い女だ」

「馬鹿、こいつは貴族だぞ。傷物にしたら、報復が怖い。よく見張っておけ。絶対に手を出すなよ」


 頭目らしき男がそう命令する。


「へい」

「へい」


 手下が答えた。


 とりあえず危険はないようね。

 やる事がないので、辺りを見回す。

 穀物が入れられた袋がある事から倉庫みたいね。

 少しかび臭い。

 長く使ってないような感じがする。

 きっと、スピラリス商会の倉庫なのでしょう。


 サウンさんは絶対に、助けに来てくれるわよね。

 株価をチェックする。


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名前    レベル  現在値   安値    高値

ラメレイ  LV12 3158A 3114A 3158A

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 少し上がっているわね。

 なら大丈夫。

 酷い事にはならないはずよ。


 時間が経つにつれて不安が広がってくる。

 あのハンカチの合図の気づかなかったんじゃ。

 風で飛ばされたりしてないかな。


 ああ、駄目よ。

 ネガティブな事を考えたら。

 やつらの目的はお金。

 いざとなれば全財産で方をつければいいわ。

 悔しいけど、お金はまた貯めたら良い。


 ポジティブな事を考えましょ。

 私を探しに来たサウンさんが大活躍して、大乱闘。

 ヒーローも活躍するけど、ヒロインも活躍するのよ。

 敵に女性がいて、ヒーローがやりづらそうにする、それをヒロインが撃退するのね。

 お約束だわ。


 そして、劇的なパッピーエンドを迎えるのよ。

 劇的って何?

 結ばれるのよ。


 やだ、恥ずかしい。

 キスされたりして。

 結婚式の場面で終わるの。

 映画じゃないわ。

 でも、ありえそうね。



 しばらくしたら、仮面の男がやってきた。


「確かにラメレイだ。金はいつもの所に持ってくる」


 この声はキルタンサス。

 株価チェックしてみる。


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名前     レベル  現在値   安値    高値

キルタンサス LV18 4878A 4878A 5015A

―――――――――――――――――――――――――――――


 やっぱり、キルタンサスだった。

 キルタンサスの株を空売りする。

 後で見てなさい。


「この後はどうしましょうか?」

「薬で眠らせておけ。そうすれば、食事も世話も要らない」

「おい」


「ちょっと何するの」

「口を開けさせろ」

「へい。こいつ指を噛みやがった」

「釘抜きを持って来い」

「へい」


「やめて。飲むわよ。飲めば良いんでしょ」


 薬を流し込まれて、私の意識はなくなった。

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