第25話 保険

 株を買っていた冒険者が亡くなった。

 株価をチェックしててゼロになっていたので、ああそうかなと気がついた。


 住んでいた場所を探して葬儀に出る。


「たった、これっぽっち。兄が死んでこれしかないのかよ」


 弟らしき少年がギルドの職員に食って掛かっていた。


「残念ですが、ギルドの口座にはそれしかありません」

「くそう、これから俺達はどうやって生きていけば良いんだ」


「あのう、差し出がましいですが、薬師養成学校に入りませんか。働きながら学べますよ」


 つい口を出してしまった。


「本当か。生きていくためだったら何でもやる」

「紹介状を書くので持って行って下さい」

「ありがと」


 今回は私が助けられたけど、毎回こうじゃないわ。

 手立てを何か考えた方が良いのかな。

 ええと空売りを利用したらどうかしら。

 保険と称してお金を貰う。


 その冒険者の株を私の資金で空売りする。

 空売りっていうのは先に株を売ってしまうの。

 そして後日買い戻して清算する。

 つまり株価が下がれば下がるほど儲かるってわけ。

 上がれば損するけどね。


 でもそんなに冒険者の株価は上がらない。

 じわじわとは上がるけどね。


 怪我した時はガクッと下がる。

 この時は空売りしておけば儲かるわ。

 この儲けを保険の支払いとして一部充てる。


 怪我はともかく人が死んで儲けるのは、人としてどうかと思うけど、保険の支払いとして充てるのならいいわよね。

 保険の申し込みの時のお金は手数料として貰いましょう。


 冒険者ギルドと話し合って保険を運用する事にした。

 掛け金は一口銀貨1枚、100Aね。

 掛け捨てで半年間の保証。

 死亡の払い戻しは金貨10枚、10万A。

 怪我の時の見舞金は金貨1枚、1万A。

 怪我は何度でも見舞金を受け取れるわ。

 怪我をして私の所に来ると、底値で買い、怪我を治療して売り払うの、コンボが使える。

 怪我は美味しい。


 亡くなった時はゼロになるだろうから、空売りの儲けは十分出る。


 私が損をしないと思う。

 たぶん黒字になる。

 沢山、儲かったら払戻金の額を増やしましょう。


 保険が運用され、怪我や死亡で泣きを見る人が少なくなった。

 驚いた事に職人が保険の加入にやってきた。


 手を使う仕事の場合、手を怪我をすると大変。

 保険に入りたくなる気持ちも分かる。

 怪我をして私の所に職人が来ると、底値で買い、怪我を治療して売り払うの、コンボが使える。

 保険に入っていれば、私の所に顔を見せる。

 その時に例のコンボができるから、空売りを使わなくても見舞金の支払いは出来る。


「仕事が忙しいな」


 サウンさんがお茶を淹れてくれた。


「ええそうね。株のスキルをもっとたくさんの人が使えればいいのに」

「神様ってのは不公平なものだ。才能ひとつ取ってみても不公平極まりない」

「そうね。なるべく不公平を無くさないと」


「まるで慈悲深い女神様だな」

「そうなれたら良いと思う。でも私の手はそんなに長くない。この国全体もカバーできるかどうか」

「少しでもやるという気持ちが偉いんだよ」


 鍛冶ギルドと提携した。

 怪我をした職人を治療する事業を始めた。

 例のコンボでウハウハよ。


 武器の増産が出来るようになって冒険者がますます活躍した。

 安い高品質の武器が沢山あれば、そうなるわよね。

 保険も今のところ上手く機能している。


 サウンさんに言われた、人、武器、薬品は何とかなった。

 後は訓練ね。

 冒険者ギルドに新人の訓練をやるように働きかけた。

 お金は私が出した。

 でも魔王が攻めて来たらこの程度の戦力じゃ足らない。


 私に魔法が使えたら。

 でも邪魔法は駄目よ。

 邪神にはなりたくない。

 火魔法で良いのよ。

 どうにかして使えるようにならないかしら。

 魔術でも構わないのだけど、本来なら1万を超える魔力があったはずなのに。


 魔石の結合がそれを解く鍵のような気がするの。

 仕組みが分からない。

 まず、魔石って何なのかしら。

 魔力を蓄えたり、魔術を行使できる。


 機械って事はないから。

 例えるなら、生き物ね。


 魔力で生きている生き物。

 二つの生き物を私が結合させたと言う事は、どういう事?

 全然分からないわ。


 マッドサイエンティストがキメラを作ったような物?

 邪神の力が発現しているのかな。

 考えても分からない。

 そのうちに分かるのかな。

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