第23話 ハンカチ

 パパンが少し面倒な事を手紙に書いて寄越した。

 あんな奴、父上とか呼ばないわ。

 パパンで十分よ。


 手紙によればクズ魔石が余っていると。

 魔石は魔道具に使っているのは知っているけど、他の事は詳しく知らないわ。

 勉強しないといけないのね。

 サウンさんを頼りましょう。


「魔石について教えて」

「魔石はモンスターならどれでも持っている。モンスターによって属性が違う。使用用途は魔道具と魔術の触媒だな」

「魔術はまだ教わってないのよ。詳しく教えてくれる?」

「魔石を持って呪文を唱えると、魔術が発動する。とうぜん魔石は使い捨てだ」


「クズ魔石が役に立たないのはなんで?」

「魔石が小さいと魔術の規模が小さくなるからだ」


「あれっ、角兎とデスバタフライの魔石は採ってないわよね」

「クズ魔石なんで売れない」


 パパンは何でクズ魔石を買い取ったの?

 馬鹿なの。

 死ぬの。

 いや、死んでしまえ。

 修道院送りの恨み忘れてないわ。


「ええと、実家の領地でクズ魔石を買い取ったのだけど、何でだと思う?」

「モンスターを狩らせる為の施策の一つだな。実入りが多ければ、やる奴が増える」


 お役所で害獣駆除のお金を出すようなものかな。

 とりあえずクズ魔石の実物を見てからね。


 冒険者ギルドで依頼を出したら、角兎とデスバタフライの魔石はすぐに集まった。

 爪より小さい魔石なのね。

 デスバタフライは緑。

 角兎は茶色ね。


 前世では宝石を溶かして再結晶させてたわ。

 でもあれは炉の凄いのがいるらしい。

 とてもそんなの設計できない。


「魔力を用いて、魔石よ一つになれ。一緒になるわけないか。あれっ一緒になった。もしかして魔術が発動した」

「くくくっ、駄目だ。面白過ぎる。でたらめな呪文で魔石を一つにしやがった、はっはっは。ひー駄目だ。お腹が痛い」

「そんなに笑わなくても」

「だいたい魔術言語を使わないで、魔術が発動するわけないだろ」

「えっと、でも凄いんじゃない」

「貸してみろ【ウインド、魔力よ風になれ】。駄目だな、この魔石は使えない」


 私が結合した緑色の魔石をサウンさんは手に取ると、魔術を発動させようとしたけど、失敗したみたい。

 結合したのでは駄目って事ね。

 それじゃあ、これになんの意味が。

 そもそも、何で結合できたのよ。


「サウンさんも結合を試してみて」

「出来ないと思うがな」


 それからサウンさんは何度も試したが結合は無理だった。

 転生特典かしら。

 でも、結合魔石が使えないんじゃ、意味のない技よね。


 色も豊富で、魔石って綺麗よね。

 宝石代わりに使えないかしら。

 でも作れるのが私だけじゃ、駄目ね。

 私がわざわざ作業する時間を捻出するのなら、冒険者の株を売り買いしている方がましだわ。


 あと考えられるのは粉にする。

 粉にしても使い道がないんじゃ駄目ね。


 染料はどうかしら。

 需要はあるはずだし。

 とりあえず染料として使えと、手紙をパパンに送っておこう。


 宝石代わりは私用に一個だけ作りましょ。


 後日、魔石の染料で染められたハンカチが届いた。

 使い切れなかったので、サウンさんにあげたら。


「ハンカチをくれるのか。本気なのか?」


 そう真剣な顔で言われた。

 分からなかったので無言で頷いた。


 後で化粧品を作っている生徒にその話をしたら。


「まあ、素敵ですわ」

「へっ、何が?」

「好意を示されたのですよね」


 あー、そんな意味が。

 未婚の女性が未婚の男性にハンカチを贈るのは、好意がありますという印だそうだ。

 もう、誰か教えておいてよ。

 そう言えばこのゲームのイベントでそういうのがあったわ。

 誰にハンカチを贈るかで物語が分岐するのよ。

 そういう意味があったのね。


 あれはナシって事にも出来ないし。

 あー、恥ずかしい。

 明日からサウンさんの顔をまともに見れる気がしない。


 義理よ。

 義理ハンカチ。

 義理チョコをあげたって思えばいいわ。


 でもちょっと受け取って貰えて嬉しいかも。

 やばい、顔が火照ってきた。

 あれは義理ハンカチよ。

 そう思うのよ。

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