第20話 薬師学校

「大した女だ。薬草の増産を実現してしまった。ますます好きになりそうだ」

「そうでしょ。やれば出来る女なのよ」


「感謝するよ。怪我や病気で苦しむ民が、どれだけ減ったか」

「サウンさんたら、王様みたいな事を言うのね」


「まあな」


 苦笑いしているサウンさん。

 ちょっと渋くて素敵。


 ヒロインと攻略キャラ達は順調にレベルを上げてる模様。

 冒険者が情報を寄越してくれた。


 冒険者の何人かがヒロインの予言を信じるようになってしまった。

 冒険者も知らないモンスターの弱点をヒロインが知っていたからだそうよ。

 その上、隠し財宝のありかも当てたらしい。

 やるわね。

 もっとゲームをやりこんでおけば良かったわ。

 財宝があれば最初にもっと楽できたのに。


 でもパン屋がなければ、サウンさんとは知り合えなかった。

 その点はナイスというしかない。


 菌と薬草の関係が判明した資料が続々と送られてくる。

 いくつか新たに人工栽培の目途がたった物もある。


 でも、街でのポーションはあまり安くなってないのよね。

 なぜかしら。

 調査が必要だわ。


 薬屋のユーフォルを訪ねる事にした。

 薬屋に行くと目の下に隈が出来たユーフォルが出て来た。

 寝てないのかしら。


「忙しいところごめんね」

「うん、忙しいから手短にね」


「何で忙しいの?」

「薬草の供給が増えて薬師の数が足りないんだ」

「それは考えなかったわ。ごめん、それきっと私のせい」

「薬草が増えるのは嬉しい。でも今の状況は歓迎できない」

「何か出来ないか考えてみる」


 帰ってから、考える。

 薬師ってどうやって増えるのかしら。


「サウンさん、薬師になりたい人はどうするんですか?」

「弟子入りだな。何年も修行して一人前になる」


 あちゃー、それは増えない。

 薬師の養成学校を作るべきよね。

 もちろん私がお金を出して。

 生徒の株は全員を買いよ。

 それで元は取れるわ。


「学校を作りたいんですけど」

「俺に紹介状を書けというんだな。分かった民のためだ」


 学校をやってくれそうな薬師に会いに行った。

 薬師はお婆さんで、今は引退しているらしい。


「薬師の学校を作りたいんですが」

「馬鹿を言いでないよ。出来るわけがない」

「何でです?」


「ポーションの数が何種類あると思ってるのさ。弟子一人一人が習熟度合いが違うんだ。無理に決まっている」

「例えば3種類ぐらいに絞ったらどうです」

「そんなの薬師とは言えないさね」

「でも簡単なのを3種類作れれば暮らしていけます。材料は山とありますし。病人と怪我人をほっとくんですか」

「それを言われると、参ったね。仕方ない、病人と怪我人の為だ。一肌脱ぐよ」


 学校が始まる事になった。

 教える題材は作り易くて、需要が高くて、薬草の栽培もしやすい物を選んだ。

 ここは出発点よ。

 作れるポーションの種類なんて徐々に増やせば良い。


 学校が出来てから、しばらく経って、ユーフォルを訪ねた。

 生徒はポーションを順調に出荷してる。

 学校なのか工場なのか分からなくなってきた。


「いらっしゃい。この間はごめん」

「いいのよ」

「ポーションの幾つかを作る必要が無くなって、ようやく休めました」

「上手くいっているようで良かったわ」


「学校の話は聞きましたよ。思い切った事をするものですね」

「まだまだよ」

「でも心配です。最初の壁に当たった時に彼らがどうするか」

「彼らって生徒の事?」

「ええ、そうです。簡単なポーションは混ぜるだけで作れますから、材料と量と工程を間違えなければ容易いです」

「壁とは何ですか?」


「薬草の質を見極めて材料の量を加減するんです」

「勘が頼りというわけね」

「経験と勘ですね。長年やっていても失敗する事があります。これが出来れば一人前の薬師です」

「なるほどね。良い事を聞かせてもらったわ」


 そういうデリケートなポーションの調合があるのね。

 何とかデータで対処できないかしら。

 この畑で採れた薬草はこのレシピという具合に。


 帰ったら学校の校長先生に相談してみよう。

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