第17話 巫女姫

 ヒロインがギルドにやって来た。

 それもフルメンバーを引き連れて。


 まずはハオルチア王子。

 相変わらずのイケメンね。

 だけど、お呼びではないわ。


 この集団だと子犬みたいなガラム。

 初対面の印象が最悪だったから、出来れば会いたくなかった。


 兄のカイエン。

 ヒロインを見る目がおかしい。

 崇拝している者をみる目だ。

 洗脳でもされたのかな。


 初対面はセダムとオロスタキス。


 セダムは将軍の息子で剣の達人。

 緑色の髪をして風の属性。

 この集団では一番背が高く体育会系イケメンというところかしら。


 オロスタキスは茶髪で落ち着いた雰囲気の知的ハンサム。

 宰相の息子という設定だった。

 眼鏡を掛けている。


 そしてヒロインのトゥレア。

 なんか衣装が黒っぽい。

 どうしたのかしら。

 もしかして、闇落ちした。


 トゥレアが私を見つけて指を指す。

 ちょっと、寄って来ないで。

 しっしっ、あっち行け。

 私は投資で忙しいのよ。


 逃げるのも癪だから来るのを待っていたけど。


「なんであなたがここに居るの?」

「仕事場なのよ」


「巫女姫、お告げでしょうか」


 そう、ハオルチア王子がトゥレアに尋ねる。


 はぁ、巫女姫。

 くっ腹筋が。

 笑いそう。


「邪悪を感じました。ですが、この者はまだ邪悪に目覚めてはいないようです」


 ええと、何となく事態が飲み込めたわ。

 ヒロインが原作知識を使ってお告げとやらをしたのね。

 それは当たって当然よね。


 冒険者が邪悪という言葉を聞いて色めき立つ。

 聖女に喧嘩売ったぞという声がちらほら聞こえる。

 どう、収拾をつけたら良いんでしょ。


 余計な事をしてくれる。


 サウンさんが進み出て手で何か合図をする。

 すると男達が現れて、ハオルチア王子を無理やり連れて行った。

 あれっ、どういう事?


「セダム、慌てる事はありません。王子を連れていったのは王子の護衛です」


 そうトゥレアが言った。

 そうなの王子の護衛が連れてったの。

 じゃあ、サウンさんは王族の元護衛なのかな。

 今は仕事してないと言ってたから。


「悪い事を言わないから、大人しく帰りない」


 そう私が言うと。


「指図しないで」


 少し憤慨した様子のトゥレア。


「巫女姫、どう致しますか?」


 うやうやしく尋ねる兄のカイエン。

 あっさり騙されちゃって。


「来たる日の戦いに備えてレベルを上げるのです」


 レベル上げに来たのね。

 しょうがないわね。

 彼らのレベルが低いと魔王との戦いが大変になる。

 敵に塩を送る気持ちで、協力してあげましょう。


「誰か彼らを手伝ってあげて。こんなだけど、友人だった人達だから」


 そう私が言うと冒険者の何人かがトゥレアに話し掛けた。


「優しいんだな」


 そう、サウンさん。


「優しくなんてないわ。彼らに死んで欲しくないだけ」

「冒険者にもその言葉を言っていたが、今回も嘘が見えないな。本気で死んで欲しくないようだ」


 まあね。

 魔王が支配する世界で暮らすなんてまっぴらごめんよ。


「サウンさんは王子の護衛と親しいの?」

「まあな、縁があってな」

「そう」


 私とサウンさんは見つめ合った。

 色々な考えが頭をよぎる。

 サウンさんも色々な事を考えているのでしょうか。


「あの」

「なに?」


「詮索はなしにしませんか。お互いに」

「そうだな。話せない事は話せないと言う事にしよう」

「それでいきましょ」


 サウンさんとは本当に気が合う。

 踏み込んで欲しくない所には踏み込まないし。

 かといって気に掛けてないわけじゃないのよね。

 考えてはいるみたい。

 こちらもだけど。


 お互い似たような事を考えているのかしら。


「ふふふっ」

「ふふっ」


 二人とも少し笑った。

 通じ合っているみたい。


 ヒロインのトゥレアがそばに寄って来て私に耳打ちする。


「ここがあなたの縄張りってわけね。良いわ、ギルドで遊んでなさいよ。私達は魔王を討伐してハッピーエンドを迎えるわ。攻略キャラは誰一人渡さない」

「レベル上げご苦労様」


 私はそう返した。


「余裕ぶっちゃって」


 ヒロインが去っていった。

 本心なんだけどね。

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