第15話 やさぐれ冒険者復活プロジェクト

 新人君達の講習も終わったので、新しい仕事をする事にした。

 題して『やさぐれ冒険者復活プロジェクト』。

 怪我でやさぐれている冒険者は底値だから買いに走る。

 そして治療して株価を釣り上げ売り払う。

 良い事をして尚且つ儲けられるわ。


 冒険者ギルドの酒場に行くと、昼間から酒を飲んでいる半分引退したような冒険者がごろごろいる。

 私はその中で適当な人物を選んだ。

 汚いオレンジ色の髪で、やはり汚い衣服。

 漂う酒臭い臭い。


 株価チェック。


―――――――――――――――――――――

名前  レベル  現在値 安値  高値

ビレン LV28 24A 20A 25A

―――――――――――――――――――――


 安い、安すぎる。

 私とサウンさんは彼のテーブルに何も言わずに着いた。


「何だ、姉ちゃん、酌でもしてくれるのか?」

「救いの女神になってあげる。ここで幸運を掴めるかは私の知った事じゃない。拒否するのも結構よ。怪我をしているんでしょ。治したくない?」

「新手の詐欺か何かか。俺は金なんか持ってないぞ。あるのは命だけだ。姉ちゃんが、俺とねんごろにでもなりたいって言うんなら別だが」


 酒臭いわね。

 もう我慢できないわ。

 私は席を立ちつかつかと歩き、酒場の掃除用具が入った戸棚を開けた。

 そして、厨房で水の魔道具を操作してバケツに水を汲んでテーブルに戻り、呆けたようなビレンに水をぶっかけた。


「このあま、何しやがる」

「臭いから洗ってやったのよ。感謝しなさい」


「一体お前は何なんだ?」

「さっきから言ってるでしょ。救いの女神よ。馬鹿なの。話も理解できないほど酒に頭をやられちゃった?」

「言ったな。怪我を治せるものなら治してみやがれ」


「サウンさん、よろしく」


 サウンさんが男を担ぎ上げる。


「やめろ! 俺をどこに連れて行くんだ」


 忘れないうちに株を3万株購入と。

 治療院の扉を叩く。


「怪我人よ治してやって」

「ビレンさんじゃないですか。金が出来たんですか」


「私が払うわよ。いくら?」

「120万アガベです」


「これで良いわよね」


 私は小切手で払った。

 待合室で待つ。

 しばらくするとビレンさんが狐につままれたような顔で出て来た。


「装備は?」

「そんなもん酒代に消えちまったよ」

「安物でも良いわよね?」


「仕事が出来るなら贅沢は言わない」


 ビレンさんの装備を3万アガベで買ってやった。


 さて、株価はどうかしら。


―――――――――――――――――――――

名前  レベル  現在値  安値  高値

ビレン LV28 288A 20A 288A

―――――――――――――――――――――


 ぴょっ、変な声が漏れた。

 24アガベを3万株買ったのよね。

 えっと儲けは、792万アカベ。

 治療費と武器代の123万を引いても、凄い儲け。


 こんなに上がるなんて。


「嬢ちゃん、悪かったな」

「いいのよ。慈善だから、気にする事はないわ」

「ひょっとして嬢ちゃんもあれか、あれを真に受けたのか」

「あれじゃ分からないわ」


「魔王の復活だよ。予言者が現れてそう言っているらしい。真に受けた奴は襲撃に備えてる」


 魔王の復活は本当だけど、このゲームに予言者なんていたかしら。

 速攻で売ってしまったから、やりこんでないのよね。


「予言者は初めて聞いたわ。慈善をしているのは商売で儲かったからよ。襲撃に備えているわけじゃないわ」

「そうか。とにかく、ありがとよ。あんたの為なら命だって張れるぜ。出入りの時は声を掛けてくれ」


 出入りって犯罪組織じゃないんだから。

 ビレンが去っていった。

 ビレンの株はまだ売らない。

 どうせ勘が鈍ってるでしょうから、時間が経てばまだまだ上がるはず。


「今日は祝杯を挙げましょ」

「しかし、面白いな。水をぶっかけたのには驚いた」

「無礼だったからよ」


「そういう所は貴族だな。気が強い女は嫌いじゃない。めそめそしてるより何倍もましだ」


 サウンさんに褒められて嬉しくなった。

 顔が赤くなってないかしら。

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