第13話 研修

「おい、お前ら。一度しか教えないからよそ見しないで見てろよ」


 サウンさんがギルドの裏庭で新人冒険者達に剣の扱いを教えている。

 新人君達はぎこちない手つきで剣を抜いたり仕舞ったりしていた。

 教える事が木剣の素振りになった。


 戦闘が得意だと言っていたユーリ君は、素人目に見ても頭一つ抜きんでてる。

 反対にダメダメなのはフィカス君。


 株価チェック。


―――――――――――――――――――――

名前   レベル  現在値 安値  高値

フィカス LV5  89A 85A 89A

―――――――――――――――――――――


 順調に上がっているようでなにより。


「僕、絶対に有名冒険者になります」


 みんなに果実水を差し入れた。

 その時受け取ったフィカスが意気込んでそう言い切った。

 こんなに熱意があって空回りしないかしら。


 サウンさんが教えているのだから大丈夫よね。


「練習も飽きただろうから、実戦をやるぞ。気を引き締めろよ。油断した奴から死んで行く」


 私はサウンさんが新人達を引き連れて行くのと一緒に、街の外の草原に出かけた。

 ここでどんなモンスターがでるかは知っている。

 角兎つのうさぎよ。

 地面に開いた巣穴から彼らが顔を覗かせる。


 次の瞬間、角兎つのうさぎが飛び掛かってきた。

 サウンさんが素早く動き、角兎つのうさぎを切り伏せる。

 やだ、ちょっと格好良い。


「油断するなと言っただろう」

「すみません」


 新人君達が謝った。


「じゃ、散らばって角兎つのうさぎを倒して来い。くれぐれも突進の正面に立つんじゃないぞ」

「はい」


 元気よく返事して、新人君が散らばっていく。

 サウンさんは先ほど倒した角兎つのうさぎをナイフで解体し始めた。

 うっぷ、駄目。

 これは正視できない。


 ちょっと、乙女ゲームでしょ。

 なるべく見ないようにする。


「生き物の解体を見るのは初めてか」

「ええ」

「慣れた方がいいぞ。冒険者と一緒に仕事していくのならな」


 そんな事言われても、無理な物は無理。


「私の担当はお料理にとどめておくわ」

「生肉は平気なんだな」

「当たり前でしょ」


「貴族の令嬢らしくないな。だが、合格だ。生肉で悲鳴を上げないのは評価できる」


 やった、合格を貰えた。

 日本ではスーパーで生肉を売っていたから平気。

 解体の何が嫌かというとあの死んだ目と血が嫌なのよ。


 新人君達が角兎つのうさぎを仕留めて来た。

 サウンさんは解体を彼らに教え始める。


 ちょっと、私にそれを見せないで。

 辺りは大量の血で真っ赤に染まった。

 血の気が引いたようになって、気がついたら倒れてて、サウンさんに膝枕されているのに気づいた。


 あー、恥ずかしい。

 血を見て意識を失うなんて。


 フィカス君を除いて、新人君達が私とサウンさんを囃し立てる。

 あー、恥ずかしい。


 こういうのは普通逆じゃない。

 私がサウンさんを膝枕して、それから。

 ちょっと私、何想像したの。

 顔が火照った。


「ありがとう」


 私は起き上がって礼を言った。


「どういたしまして。やっぱり貴族令嬢だな」

「血を見慣れてないからよ」

「このぐらいで気を失っていたら命が幾つあっても足らないぞ」


 少しずつ慣れるしかないのね。

 気持ちを切り替えていきましょ。


 株価チェック。


―――――――――――――――――――――

名前   レベル  現在値 安値  高値

フィカス LV5  92A 85A 92A

―――――――――――――――――――――


 解体を覚えてフィカス君の株価が更に上がった。


「危ない」


 角兎つのうさぎが私に飛び掛かってきた。

 フィカス君が身を挺して私をかばってくれた。

 サウンさんが剣を一閃。

 角兎つのうさぎを仕留める。


 フィカス君に怪我はないようね。

 皮鎧も案外馬鹿に出来ない。


「フィカス君、ありがとう」

「名前、憶えてくれたんですね」

「もちろん」


「今回のお礼をしたいわ。何が良い?」

「あの、あの、Eランクに上がったらお祝いして下さい」

「いいわよ。料理の美味しい所に連れっててあげる」

「やった」


 そんなに喜ばなくても。

 それよりヒロインは冒険に行った時に、平気かしら。

 魔王退治に行くのよね。

 今のうちから慣れておかないと大変な事になりそう。

 兄のカイエンに忠告しておこうかしら。

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