第2章 冒険者編
第10話 下見
今日はサウンさんの案内で、新しい事業の下見。
なんと場所は冒険者ギルド。
別に私がモンスターを倒したいというわけではありません。
ちょっとした計画があるの。
それがどうなのかなと。
ギルドはゲームで見たから新鮮さはない。
受付カウンターと併設してある酒場に、壁の掲示板。
「よう、サウン。べっぴんさんだな。これか」
冒険者と思われるいかつい男が小指を立てる。
「違う。護衛対象だ」
私をどう思っているか気になっていたけれど、護衛対象なのね。
私は仕事のパートナーだと思っていたわ。
話し合いが必要かも。
見回したけど、お目当ての新人冒険者さんは居ない。
仕方ないので、カウンターの列に並んだ。
しばらくして私の番になった。
「仕事のご依頼ですか?」
「ちょっとお聞きしたいのです。新人の冒険者さんには、どこへ行けば会えます?」
「ちっ、男漁りもほどほどにしとくんだね。あんたみたいな女には教えられないよ」
豹変する受付嬢。
「えっ」
私は絶句した。
そんなつもりじゃ。
酷い。
もしかして、見た目が悪役令嬢だから。
日本の気分でいたわ。
転生ぼけね。
「新人冒険者なら朝早く来れば会えるぞ」
サウンさんが親切に教えてくれた。
「ちっ、見せつけて」
受付嬢が毒を吐く。
受付嬢は駄目ね。
サウンさんと酒場のテーブルの席に座った。
「新人冒険者の事を教えてくれる?」
「あいつらは誰よりも良い依頼を取るって必死だ。だから、朝早くにギルドに来る。朝行くのはお勧めしないぞ。殺気立っているからな」
なるほどね。
作戦が必要なようね。
後で考えましょう。
ここにはもう用はないわ。
次の目的地に行きましょ。
行ったのは不動産屋。
店を借りる事にしたの。
案内されたのは、白塗りの壁で、オレンジと緑の縞の日除けが掛かっている店だった。
ウッドデッキもある。
1階が店舗で2階が居住スペースね。
中に入るとピンクのカーテン。
大きめの窓からは明るい日差しが差し込んでいた。
カウンターがあり、丸いテーブルが三つ。
「元は何をやってられたんですか」
「元は喫茶店だったんだけど、借金で首が回らなくなって夜逃げだよ。験が悪いって言うんで借り手がないのさ。安くしとくよ」
「気に入ったわ。ここにします」
ここがラメレイ商会よ。
ここから始まるんだわ。
1階を調べる。
基本的な物はみんな揃っている。
さすがに魔道具の類は持ち去られていたけど、食器なんかは残っているわね。
水の魔道具とコンロの魔道具を買って準備は万端。
お茶を淹れましょ。
ヤカンに水を入れようとして、どうしても水が出ない。
「何やってるんだ。魔力を入れないとだめだろ」
「魔力ね。3で足りるかしら」
「何でそんなに少ないんだ。少ない奴でも100は超えているぞ」
「何ででしょうね」
私は基本、役立たずみたい。
サウンさんが魔道具に魔力を注いで事なきを得た。
「ふぅ、話したい事があるの」
私はお茶を一口飲んでから話し始めた。
「何だ?」
「サウンさんを仕事のパートナーにしたいわ。もちろんお給料も弾みます。どうかしら」
「いきなり辞める事になるかも知れないが、それでも良いか?」
「もちろん。でも、辞める時に、出来るだけ早く話をしてくれると助かるわ」
「そうするよ」
えっ、サウンさん辞めちゃうの。
物凄く悲しいんだけど。
この気持ちは何?
大得意様を逃した感じなのかな。
でも仕方ないわ。
仕事の選択は自由なのだから。
とりあえず新しい仕事は始まったわ。
胸に残る痛みを無理やり嬉しい気持ちに切り替えた。
サウンさんが帰ったので、2階の居住スペースを見て回る。
ベッドは使えそうね。
布団はないから、買わないと。
カーテンとソファーはこのままでも良い様ね。
後で時間があったら、壁紙とか色々を模様替えしたいわ。
とにかく明日から本格始動ね。
宿に帰って、ベッドに横たわり考える。
新人冒険者を使って事業をやるのは別に良い。
だけど、サウンさんに株スキルの事を打ち明けないと。
そうしないと意味不明な事をするおかしな人間だと思われるわ。
それはちょっとやるせない。
でも、株スキルの事を打ち明けるのは怖い。
嫌われるんじゃないかって。
だって人を利用して儲けるスキルだから。
嫌われたらどうしよう。
嫌われたら生きていけない。
ええい、うじうじして私らしくない。
こうなったらコイン投げで決めましょ。
金貨を投げて表だったら打ち明ける。
裏だったら意味不明なやり方に屁理屈をつける。
えいっと金貨を投げてキャッチ。
目を瞑って手を開く。
怖くて目が開けられない。
恐る恐る目を開ける。
表だった。
もう一回。
駄目よ。
決めたのだから。
明日、打ち明けましょう。
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