第9話 兄様
店に兄のカイエンとヒロインのトゥレアが入って来た。
「ラメレイ、探したぞ」
「この間の奴の仲間か?」
サウンさんが身構えて、私に聞いてきた。
兄のカイエンは赤毛でキリっとした美男子で、何でも出来そうな自信に溢れた雰囲気がある。
私は前世で兄が居なかったせいで、どうも兄というものが分からない。
距離感が掴めないのよ。
おまけでついてきたヒロインは相変わらず可愛い。
気性の荒い小動物と言ったところかな。
「彼は兄よ」
「そうか。何かあったら呼べ」
「母上が心配してたぞ。家に一度帰れ。父上も言い過ぎたと反省している。お前が居なくなって食事が喉を通らなくなったぐらいだ」
「今は帰れないの。後で手紙を書くわ」
「しかし、意外だな。平民を見下してたお前が、パン屋で働くとはな。変われば変わるもんだ。トゥレアにした事は許せないが、少し見直した」
「あなた、なんで学園に通わないの。イベントが少しも進まないじゃない」
カイエンがヒロインを見る目が険しくなった。
何言ってるんだこの女と目が語ってる。
馬鹿な子ね。
ゲームの知識をここで話しちゃ不味いでしょ。
電波女だと思われるに違いない。
「はいはい。王子が許してくれたらね」
「王子なら私の言いなりよ。言質は取ったわ」
カイエンの目が更にきつくなる。
王子をいい様にしているなんて側近の前で発言したら、どうなるか分かるでしょ。
邪魔法でも掛けてるのなら別だけど。
「商売の邪魔だから帰って」
「ここってドルスのパン屋じゃないの。イベントで店を発展させるアドバイスをするのよね。そう言えば日除けも直ってるし。エプロンも洗濯されてる。なんで私の代わりにイベント進めちゃうのよ」
「あなたの言ってる事は意味不明だわ。兄様が機嫌を損ねる前に帰った方がいいと思う」
トゥレアはカイエンの雰囲気を察して口を押さえて驚いた顔をした。
「今日は帰ります。ごきげんよう」
トゥレアが猫を被ったけど、ちょっと遅かったわね。
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名前 レベル 現在値 安値 高値
トゥレア LV1 14,781A 14,781A 15,655A
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やっぱりね。
大きく下げてる。
失言には気をつけないと。
「兄と和解できたようで、なによりだ」
サウンさんが優しい目で、そう言った。
サウンさんは仲が悪い弟がいるんだとか。
複雑な家庭事情らしい。
踏み込んでは聞けないから、その程度にとどめておいたけど。
「ありがとう」
「あの女は酷いな。言っている事の意味が全然分からない。邪教かぶれか何かか」
「変な閃きでも得たのでしょう。無害だから気にする事はないわ」
「ところで、ラメレイはパン屋ギルドをドルスに任せて、何をするつもり何だ」
「商会を作ろうかと思っているの」
「なら、俺も一緒に行ってやる」
「ええっ、何で?」
「それは言えない」
「訳ありでも嬉しいわ。私を害するつもりがないならね」
「そんなつもりはない。誓ってもいい」
Side:サウンデル
「話がある」
ある日の夕暮れ、店でそうドルスから言われた。
「何だ」
「僕は機会をみて、ラメレイに求婚したいと思っている」
そう言ったドルスは少しも嬉しそうではない。
受け入れられるのか不安なのか。
「それはおめでとう」
「ぜんぜん、おめでたくない。ラメレイが好きなのはサウン、君だ。視線が物語っている」
敵意とか蔑みの視線なんかだと敏感なんだが、好意の視線か。
ドルスには悪い事をした。
俺は事情があって、ラメレイと結ばれる事はできない。
もっと早く気づいていれば、俺が身を引いたのに。
「それは気づかなかったな」
「話というのは、僕が振られたら、僕の代わりに彼女を守ってほしい。男としての頼みだ」
「やってもいいぜ。彼女の事は気に入っている。今はやるべき事もないしな」
「この頼みは秘密にしてほしい」
「分かったよ。ドルスは本当に彼女の事が好きなんだな」
ドルスの男としての頼みだ。
精一杯、務めさせてもらうよ。
たが、ドルスの求婚が成功して、この頼みが無効になればいいと思っている。
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