第6話 手荒れ用軟膏

 次の日。

 洗濯はファンの子がやってくれているので、私は居住区を掃除する事にした。


 そして、食堂に行ってその惨状に目を疑った。

 汚れた食器が山と積んである。

 洗うわよ。

 洗えばいいんでしょ。


 汚れが乾くとこびりついて取れないのよね。

 そういうのは桶に沈めておきましょ。

 漂白剤とかないかしら。


 二日続いての水仕事は、貴族令嬢の手には優しくなかったみたい。

 手が少し荒れたわ。

 ゴム手袋も売ってないし、これはこれで仕方ない。


 出来るところが終わったので、手荒れ用クリームを求めて薬屋に行く。

 この世界だと軟膏らしいけど、どこが違うのかしら。

 薬屋に入ると青臭い匂いとハッカのような刺激臭がした。


「いらっしゃい」


 男の店員さんが応対してくれた。

 この店員もハンサムね。

 流石、乙女ゲーム。

 モブでもブサイクはいない。


「手荒れに効く軟膏が欲しいのですけど」

「そうですね。よく効くのだとこの辺りですね」


 カウンターにいくつか軟膏が並べられた。

 ファンタジーらしくないわね。


 そうよ。

 ポーションはないの?

 あるはずよね。


 ラメレイの記憶にもそれはある。


「ポーションはないのですか」

「それですと、値段が少し張りますよ」

「思ったんですけど、軟膏にポーションを練り込んだら、いい手荒れ用軟膏が出来るんじゃないかしら」

「そうですね。出来ます。ただ、薬師ギルドの掟でそれは出来ないんですよ」

「どういう事ですか?」

「ポーションは水増しして、売ってはならないというのが、決まりでして」


「それでは、薬成分が入ってない軟膏とポーションを下さい」

「分かりました。金貨1枚と銀貨2枚になります」


 お金を払い軟膏とポーションを受け取る。


「軟膏とポーションを混ぜて下さい」

「本当はいけないのですが、もう売った後ですし。掟上は問題ないですね。サービスです」


 店員にウインクされた。

 親切な店員ね。

 気に入ったわ。


「あなたお名前は? 私はラメレイよ」

「ユーフォルと申します」

「また来るわ」


 出来上がった軟膏を受け取り店を出た。


 発明というのはおこがましい手荒れ用軟膏が出来た。

 効果は抜群で、塗るとすぐにツルツルお肌を取り戻した。

 こんな良い物があるのなら広めないと。


 後で製品化を考えましょう。

 でも、金貨は少し高過ぎね。

 庶民に売るのならもっと安くしないと。


 庶民と言えばヒロインが庶民の出だったわよね。

 あんな性格でなければ一緒に商売をやるのに。


 ラメレイの記憶にヒロインを虐めた記憶はない。

 苦言は何度か呈したみたいですけど。

 ヒロインが嫌がらせを受けていたのは事実だけど、ラメレイが直接手を下したわけじゃないみたい。

 きっと、ラメレイの取り巻きがやったのね。

 ラメレイは取り巻きを止めなかったけど、焚きつけもしてない。

 見ないふりしたようね。

 ほとんど記憶にないから、見てないというか、関心がなかったのかも。


 今のヒロインはラメレイに対して恨みとかあるのかな。

 彼女も転生よね。

 どう思っているのかしら。


 井戸の所に行き、ファンの子を集める。


「これを使って。手荒れ用軟膏よ」

「いいの」


「使った感想を聞かせて」


 ファンの子が手荒れに軟膏を塗る。


「うわっ、すべすべ」

「信じられない」

「ねぇ、どこで手に入れたの?」


「私が考えて、作ったのよ」


「売りだしたら買うわ。その時は教えて」


 手荒れ用軟膏は評判が良いようね。


 さて、株価をチェックしましょ。

――――――――――――――――――――――――

名前   レベル 現在値  安値   高値

ラメレイ LV1 144A 139A 144A

――――――――――――――――――――――――


 少し上がったわ。

 手荒れ用軟膏は需要があるみたい。

 でもこのままだと商品にはならない。

 今の値段だと貴族用ね。

 貴族は水仕事なんかしないから、ほとんど需要が無い。

 要研究って事ね。


 株価ですけど、人の総合的な魅力を表しているみたい。

 会社の株価は会社の魅力よね。

 資産や将来性やらもろもろで決まる。


 もちろん倒産しそうなら株価は下がる。

 ラメレイが暴落したのは、死ぬ一歩手前に行ったという事なのね。

 修道院行きは死と同義みたい。


 人の株価を上げるに手っ取り早いのは経済力ですけど、人気でも上がるみたい。

 施しも、後々は考えていきましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る