第4話 パン屋
さて、まずは。
前にも言ったけど、前世で料理をしなかった私は、焼き立てのパンが好きで、毎日作ってたのよね。
天然酵母も何回か試した事があります。
この国のパンが不味いのはラメレイの記憶で知っている。
パン屋に就職しましょう。
そのパン屋は裏通りの寂れた所に建っていた。
外壁にツタが絡まってお洒落というよりは少し不気味。
ボロボロな日除けが不気味さを更に増している。
辺りに漂う香ばしいパンの匂いと、パンの絵を描いた看板が、ここがパン屋だと教えてくれる。
扉の前で深呼吸。
思い切ってパン屋の扉を開く。
「いらっしゃい」
出迎えたのはハスキーな声の美青年。
紫の髪で色気がムンムン漂って来る。
この人、職業を間違えたと思う。
吟遊詩人なんかしたら流行りそう。
でも汚れてよれよれになったエプロンと三角巾は、いただけないわ。
美青年が台無しなのはともかく、衛生上良くない。
商売は見た目が大事なのもあるし。
「すみません、ここで雇って頂けませんか」
「なんだ。客じゃないのか。僕のファンなら生憎、間に合っている。雇ってくれと押し掛けたのは君が初めてだ。ラブレターなら受け取るから、出直しなよ」
さて、株価オープン。
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名前 レベル 現在値 安値 高値
ドルス LV9 1,295A 1,284A 1,305A
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ドルスという名前なのね。
とりあえず、1千株買いよ。
「あなた、駄目よ。ぜんぜんなってない。お金が無いので、日除けが新しいのに換えられないのは分かるけど。そのエプロンと三角巾は許せないわ」
「君にそんな事を言われたくないな。事情も知りもせずに」
「そんなの知らないわ。あなたの名前だって教えてもらってないのに」
「喧嘩を売って来るファンの子は初めてだよ。少し興味が湧いたな」
「言っておくけど、ファンではないわ。純粋に店員に就職希望なだけよ」
「そうなの。てっきりファンだと思った。まあいいよ。この店は一年前まで僕の父がやっていたんだ。父の腕は良くて店はボロボロだけど、行列がいつも出来てた。父が死んで僕が店を引き継いだんだ。このエプロンと三角巾は父の物で遺品なのさ。傷むと困るから洗ってない。父が使っていた時も汚れていたし」
「あなた馬鹿ね。遺品ならもっと大事にしないと」
「大事に使っているさ」
「そうじゃないわ。綺麗に洗濯して普段はしまっておきなさい。そして、新作のパンを出すような特別の時にそれを使うのよ。勝負服ね。それなら、あなたの父もきっと喜んでくれるわ」
「そういう発想はなかったよ。勝負服ね。気に入ったよ。これからは新しいのを下ろして、エプロンと三角巾は毎日洗うよ」
「そうなさい。私、パン作りの秘伝を知っているのですけど、興味はないかしら」
「あるね。僕は子供の頃、修行が嫌で逃げ出したんだ。基本は知っているけど、美味しい物は作れない。ファンの女の子が買っていってくれるから、なんとか暮らしてはいけているけど。このままじゃいけないと思っている」
「私が秘伝を教えるわ。だから、雇ってよ」
「君はファンの子とは違うね。分かった雇うよ」
「秘伝を仕込んで10日後にまた来ます」
「秘伝を試すのはいいけど、大した金額は払えないよ」
「ええ、問題ないわ。新しいパンの売り上げの一割頂ければ十分です」
「商談成立だね。待ってるよ」
この店を去る前に、やっておかないといけない事があります。
株価オープン
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名前 レベル 現在値 安値 高値
ドルス LV9 1,332A 1,284A 1,332A
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上がってる。
私が関わる事になったからだわ。
さあ、宿をとって酵母を仕込みましょう。
宿に行く途中でリンゴを買う。
そして大きめのガラス瓶を買った。
宿の厨房を借りて作業開始よ。
湯を沸かして瓶を消毒する。
切ったリンゴと沸騰から冷ました水を入れる。
後は時々揺するだけ。
さあ私の価値は。
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名前 レベル 現在値 安値 高値
ラメレイ LV1 138A 95A 138A
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やった、上がっている。
私の株は1万株買ったから、天然酵母の利権だけで、金貨26枚も儲けた。
たぶん、パン屋が盛況になればなるほど私の株はもっと上がるはず。
1週間後のドルスの株価も楽しみだわ。
いくつもの銘柄を買うのはリスク分散の上で正しいわ。
パン屋の客で伸びそうな人がいたら、その人の株も買いましょ。
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