第2話 ヒロイン

 誰も居ない暗い学園の廊下を歩く。

 静寂に包まれて寒々とした空間ですけれども、私には輝いて見えた。

 ここから栄光が始まるの。


 さてとまずは。

 私の数少ない趣味のパン作り。

 焼きたてのパンは美味しいのよね。

 毎日食べる物だから自作していたわ。

 料理はほとんどしなかったけれど、これは研究もした。


 株価オープン。


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名前   レベル 現在値 安値  高値

ラメレイ LV1 87A 87A 16,287A

――――――――――――――――――――――――――


 うん、上がってない。

 よしよし。


「天然酵母でパンを作るよ! 株価オープン」


――――――――――――――――――――――――――

名前   レベル 現在値 安値  高値

ラメレイ LV1 88A 87A 16,287A

――――――――――――――――――――――――――


 やった、上がっている。

 上がっているって事はこの方針は悪くないって事ね。

 株価はどうやら総合力で決まるようね。

 考えただけじゃ株価が上がらない。

 行動が反映されるみたい。


 色々な計画を練っているうちに自室に到着した。


 鏡の前に立ち自分の姿を見る。

 美人だわ。

 漆黒の髪に、グラビアのモデルでも通用しそうな、グラマーなボディ。


 目つきはきついけど、美人なのは間違いない。

 ラメレイの年齢は15歳、ちなみにハオルチア王子は18歳。


 詳しくは覚えてないけど、前世では倒れて意識を失った気がする。

 死んだかも。

 若返ったし、美人さんだし、断然お得よね。

 でも、こうして生きているのだから、精一杯生きないと。

 パッピーエンドとバッドエンドは断固拒否よ。


 引き出しを開けると、金貨が何枚も無造作に放り込まれていた。

 さて買うわよ。


 ラメレイの株を1万株買った。

 株価の『A』はアガベ。

 お金の単位よ。


 1アガベは銅貨1枚。

 100アガベは銀貨1枚。

 10000アガベは金貨1枚。


 88枚の金貨を使った事になる。

 あとは生活資金に残しておきましょう。


 扉がノックされる。

 誰かしら。


「どうぞ」


 女の子が入って来る。

 ピンク色の髪で優しそうな目つき。

 スタイル抜群ね

 私には負けるけど。


 たしかこの顔はヒロインのトゥレア。

 何の用かしら。

 とりあえず、株価オープン。


―――――――――――――――――――――――――――――――

名前   レベル 現在値     安値      高値

トゥレア LV1 22,317A 21,124A 22,587A

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 私の高値より現在値が高い。

 さすがヒロインね。


「あなたどういうつもり」

「どういうつもりって?」

「王子が卒業しちゃったじゃない。邪魔法を使って、もう一年留年させるって何で言わせないの」


 そういう設定もありましたね。

 本来なら、悪役令嬢は邪魔法で王子の卒業を撤回させるのでした。

 すっかり忘れてましたね。

 ええと、邪魔法を知ってるって事はこの子も、もしかして転生者?


「出来ないものは出来ません」

「邪魔法を使いなさいよ。私の聖魔力を目覚めさせなさい」


 聖魔力も知ってるって事は転生者確定ね。

 でも、いきなり頭ごなしに命令される筋合いはないわ。

 そういう人とは仲良くなれそうにない。


「邪魔法なんて持ってないですけど」

「嘘よ。そんなはずはないわ。婚約破棄で目覚めるはず。そして、王子と4人の側近を虜にするのよ。こっそり、一人だけに使ったわね。意中の男性は誰よ。その人は譲ってあげる」

「そんな方はおりません」


「さては5人全員に使ったわね。早く私にも使って」


 さてと、株価オープン。

 どうなったかしら。


―――――――――――――――――――――――――――――――

名前   レベル 現在値     安値      高値

トゥレア LV1 15,745A 15,745A 22,587A

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 やっぱりね。

 私と敵対したから価値が下がったのね。

 実験台ご苦労様。


「あまりしつこいと警備員を呼びますよ」

「あなたの事は許さない。ハッピーエンドを実現して、必ず断罪してあげるわ。覚えてなさい」


 トゥレアが乱暴に扉を閉めて去って行った。

 ええとヒロインが残念な子だと分かったわ。

 関わらないでおきましょう。

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