第31話『納戸町』
ピボット高校アーカイ部
31『納戸町』
この先が目的地だ。
商店街の入り口みたいなところで先輩は立ち止まった。
「まずは現場の下見だ。三百メートルほど行くと右手に骨とう屋が見えてくる、わたしたちと同年配の女の子が店番をしているはずだから、よく見ておけ」
「イケメンの番頭さんとかいないんですかぁ?」
「真面目にやれ、麗二郎」
「麗二郎言うな(`Д´)!」
「麗と呼んでやれ、ここでは花の女学生なんだからな」
「は、はい」
なんで僕が怒られるんだ(>o<)。
「行くぞ」
「「はい」」
ゆっくりと通りを歩く。
納戸町は新宿区だから、もうちょっと賑やかかと思ったけど、人通りが、そこそこあるだけで印象としては田舎町だ。要(かなめ)の駅前通りの方がイケてるかもしれない。
「明治25年だからな」
「着物ばっかり……それに、ちょっとダサイかも」
確かに、みんなゾロリとした着こなしだ。姿勢が悪いし、胸元が緩くて帯の位置も低い。もうちょっとシャンとすればいいのに。
「フフ、あたしたち、ちょっとイケてません?」
「まあな、この時代に合わせてはいるが、若干の趣味は入れている。ただな、この時代の着こなしにも意味がある」
「どんな意味ですか~?」
「我々の着こなしは、長時間になると胸と腹を圧迫する。朝から晩まで着物で居るには、ああいう着こなしの方が楽なんだ」
「あ、言えてるかも。これでディナーとか言われたら半分も食べられないかも」
「だろ、だが、この時代で晩飯を食べるつもりは無いから、見た目を重視した」
「さっすがあ、螺子せんぱ~い!」
「こら、抱き付くなあ!」
「先輩、見えてきました……」
電信柱の向こうに骨董屋の看板が見えてきた。
「よし、まずは通り過ぎるぞ」
「「はい」」
コンビニに鞍替えしたら、ちょうどいい感じの大きさ。ここまで歩いた感覚では中の上といった規模の角店。
チラッと目をやると、帳場と言うんだろうか、今でいえばレジみたいなところにお人形のように小柄な女の子が店番をしている。
うりざね顔の和風美人……お祖父ちゃんなら「門切り型の言葉で感動しちゃいけない」って言うんだろうけど、そういう印象。でも、口元は可愛いだけじゃなくてキリっとしている。見かけによらず意地っ張り……いや……通り過ぎてしまった……緊張したぁ。
「なかなかの観察眼だぞ、鋲」
電柱一本分行ったところで先輩が褒めてくれる。
「いえ、もうちょっとと言うところで通り過ぎてしまいました(^_^;)」
「ちょっと気になるんだけどぉ」
「なんだ麗?」
「二人って、時どき心で会話してない? 今も、鋲君は何も言ってないでしょ?」
「ふふ、鋲とは深い付き合いだからな、以心伝心なのさ」
「そうなんだ、ちょっと羨ましいかもぉ」
「ちょっと、先輩(;'∀')」
「まあ、ちょっとした相性だ。これでいいか、鋲?」
「どっちも良くないですから」
「アハハ、よし、次は直接口をきいてみることにしよう」
「じゃ、とりあえず帰りますか?」
「いや、たった今からだ」
「うわあ、ワクワクするぅ」
「ちょ、先輩!」
「ハハ、鋲も分かっているくせに。ま、そういうところも可愛くはあるんだがな~」
「うわあ、微笑ましい~」
「違うから麗二郎~!」
「麗二郎言うな~!」
通行人の明治人の人たちが微笑ましそうに笑っていく、こういうところは令和よりは人の垣根が低いのかもしれない。
僕一人ワタワタしているうちに、先輩と麗は店の中に足を踏み入れた。
☆彡 主な登場人物
田中 鋲(たなか びょう) ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなか らこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
中井さん ピボット高校一年 鋲のクラスメート
西郷 麗二郎 or 麗 ピボット高校一年三組
田中 勲(たなか いさお) 鋲の祖父
田中 博(たなか ひろし) 鋲の叔父 新聞社勤務
プッペの人たち マスター イルネ ろって
一石 軍太 ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)精霊技師
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます