第30話『明治25年にセーラー服は無い』

ピボット高校アーカイ部     


30『明治25年にセーラー服は無い』





 ちょ、大丈夫!?



 再び転げ落ちて心配なのは、僕たちの後に転げ落ちてきた女生徒。


 先輩と僕は自分の意思で魔法陣に立ったけども、放課後の混雑の中、正門付近は下校の生徒が一杯いて、巻き込んでしまったことは想像に難くない。


「う、う~~ん」


 呼びかけに、こっちを向いた女生徒を見て、僕も先輩もビックリした!




 カ、カミングアウト!?




「……わたしたちの後に魔法陣に飛び込んでしまったという訳なんだな?」


「はい、先輩と田中くんが抱きしめ合って消えたものだから、つい、追いかけてしまったんです」


「だ、抱きしめ合っていたんじゃない! ダウンジングの感度を上げるためにだなあ……」


「いや、結果的には抱きしめていたんだから間違いではないだろう」


「そこは否定してくださいよ!」


「それで、ここはどこなの? 何が起こったんですか?」


「おまえが飛び込んだのはタイムリープに特化した魔法陣だ、そして、ここは明治25年の新宿区、たぶん牛込川の土手下だ」


「明治25年……」


「ああ、130年ほど昔だ」


「ええと……平成、昭和のもう一つ前?」


「二つ前だ、大正時代をないがしろにするな」


「先輩、いちど令和に戻りませんか、ちょっとイレギュラーな展開ですから」


「確かめてからな。リープそのものはカミングアウトが来る前に確定していたからな」


「えと……」


「「なんだ?」」


「カミングアウトには違いないんですけど、名前で呼んでもらっていいですか?」


「そうか、では、名乗れ」


「はい、一年三組の西郷……です」


「西郷……下の名前は?」


「麗(うらら)です、麗しの麗と書いてうららです」


「へえ、かわいい名前だね」


「へへ(^_^;)」


「本名を聞いている(ㅎ.ㅎ)」


「本名です!」


「西郷麗と打ち込んでもグリーンにならんぞ」


 先輩が示したインタフェイス、西郷麗の文字が赤く点滅している。


「え?」


「本名を打ち込まんと、魔法陣は正しく機能しないんだ。戻れなくなるぞ」


「そうなんですか!?」


「えと……西郷麗二郎……」


 サイゴウレイジロウ!?


「なんだ、男らしくていい名前じゃないか……よし、グリーンになった。ん……ミッションが出てきたぞ」


「ミッション!?」


「麗二郎は初めてだろうが、我々は任務遂行のためにタイムリープしているんだ」


「今回は、どんなミッションですか?」


「……ちょっとデリケートな任務だなあ」


「「デリケート?」」


「ああ……しかし、このナリで明治25年の東京は歩けんなあ」


「ダメなんですか制服じゃ?」


「ああ、令和の制服じゃなあ。セーラー服が現れるのは大正9年だ。明治25年では違和感がある。まして、お前たちの制服ではなあ」


 ということで、明治25年に相応しいナリになった。


「って、どうして、僕まで女装なんですか(,,꒪꒫꒪,,)」


 三人とも矢絣の着物に海老茶や紺の袴姿。


「わ、女子大の卒業式みたいですね(^▽^)/ 鋲も似合ってるよ!」


 麗二郎は喜んでいる。


「この時代、男女の学生が一緒に歩くと白い目で見られるんだ」


「そうなんですか?」


「不順異性交遊なんですよね(^▽^)」


「嬉しそうに言うな!」


「鋲、歩くときは内股でな」


「こ、こうですか?」


「こういう風に歩くのよ!」


 麗二郎が見本を示す。悔しいけどサマになってる。


「まあ、それでいいだろ。では、行くぞ」


「「はい!」」




 というわけで、僕たちは牛込納戸町の骨とう品屋を目指した。




☆彡 主な登場人物


田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部

真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート

西郷 麗二郎 or 麗           ピボット高校一年三組 

田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父

田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって

一石 軍太                ギュンター・アインシュタイン 精霊技師 


 

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