第29話『転がり落ちる』
ピボット高校アーカイ部
29『転がり落ちる』
ダウンジングのL字棒は、あと十メートル程で正門を出てしまうというところで動きを停めた。
「このあたりだ」
「でも、魔法陣は見えませんけど……」
「ああ、水平方向にはな……集中しろ、微妙に下を指しているようだぞ」
L字棒を握る手を少しだけ緩めると、ほんの少しだけL字棒の先が斜め下を指す。
「どうやら、少し地面にめり込んで見えなくなっているようだな」
「え、魔法陣がですか?」
「近くに居さえすれば、多少上下にズレていてもL字棒は機能する」
「でも、どこが魔法陣か……」
「そうだな……おぼろにも見えるようにしないとな……よし!」
ムギュ!
「ちょ、先輩!」
ただでも密着しているのを、さらに僕の背中に手を回して抱きしめるようにしてくる。
「ほら、浮かび上がってきたぞ!」
僕たちの周囲に相撲の土俵ぐらいの魔法陣が浮かび上がってきた。浮かび上がってきたんだけど、氷の下を浮き沈みしているようにボンヤリしていて頼りない。
「もう少しだ、鋲もきつく抱き付いてこい!」
「は、はい(#;'∀'#)!」
ムギューーー!
氷の下なら五センチぐらいのところまで魔法陣が浮かび上がってきた。
しかし、放課後すぐの正門の内側、下校しかけや部活に向かう生徒たちがいっぱいいる。
「え、なにぃ?」「ちょ!」「やだぁ!」「うわぁ!」「びっくりぃ!」「おぞぃぃい!」
遠巻きにしている中には中井さんやカミングアウト……って、このごろ現れすぎ。
「今だ、ジャンプ!」
「はひぃ!」
ピョン
バキバキッ!
まさに、氷が割れるような音がして、僕たちは時空を飛んだ。
ドスン! ゴロゴゴロゴロ!
落ちたと思ったら転がり出した!
うわああああああ!
先輩と抱き合ったまま果てしなく転がり落ちていく……というのは衝撃と恐怖心からの錯覚なんだろうけど、感覚的には数分転がり落ちた。
ズサ
ようやく平らなところに落ち着いたと思ったら、ちょっと息苦しい。
「フガ……先輩、もう大丈夫みたいですから」
「そ、そうか」
「プハーー」
「ああ、すまん。わたしの胸がもう少し大きければ窒息させていたところだったな」
「あ、いえ……咄嗟に庇ってもらったみたいで、ありがとうございます」
「フフ、日ごろの愛情がなせる業だ、気にするな」
「は、はあ」
「しかし、こういうことになるのなら、いっそブラを外してくるんだったな(^o^;)」
「あ、そういう冗談はいいですから、よかったらどいてくれませんか?」
「そうか……なんだか、このまま転がって昼寝でもしたい感じだがな」
どうやら川の土手の斜面に出てしまって、そのまま転がり落ちてしまったようだ。
土手は二段構造になっていて、真ん中あたりで留まることができた。
「いつの時代の、どこなんでしょう?」
いつもの魔法陣だと、ゲートを通るか、あらかじめ場所が分かっているので、こういう飛び方をすると見当がつかない。
「ちょっと調べてみよう」
先輩が、ワイパーのように手を振ると異世界系アニメのように仮想インタフェイスが現れた。
「明治25年(1893)の牛込区……今の新宿区だな」
「要の街を飛び出してしまったんですか?」
「ああ、やはりバージョンアップしているようだな。せっかくの東京、サイトシーングしてみたいところだが……」
「なにか任務があるんですか?」
「ああ、クエストのアイコンが点滅している……」
「……クリックしないんですか?」
「見たら放っておくわけにもいかんだろうしな」
「いいんですか?」
「せっかくの東京、それも明治25年だぞ、散歩ぐらいしても罰は当たらんだろう……」
ドスン! ゴロゴゴロゴロ!
うわ!?
僕たちが落ちてきた同じ空間に、ピボット高校の女生徒が落ちてきて土手を転がり落ちてきた!
うわああああああ!
とっさのことに身を庇うこともできず、僕たちは、落ちてきたそいつと一緒に土手の一番下まで転がり落ちてしまった。
☆彡 主な登場人物
田中 鋲(たなか びょう) ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなか らこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
中井さん ピボット高校一年 鋲のクラスメート
田中 勲(たなか いさお) 鋲の祖父
田中 博(たなか ひろし) 鋲の叔父 新聞社勤務
プッペの人たち マスター イルネ ろって
一石 軍太 ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン) 精霊技師
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