第28話『ダウンジング』

ピボット高校アーカイ部     


28『ダウンジング』





 放課後の部活動、部室のドアを開けると先輩が唸っている。


 うーーーん


「お腹でも痛いんですか?」


 先輩は、浅く腰かけた姿勢で、お腹を抱えて前かがみになっているので、ほんとうにそう思った。


「魔法陣だ」


「え?」


 言われて床を見ると、いつもの魔法陣が頼りない。


 輝きが弱くなって、心なし揺れているように見えて、消えかけのロウソクのようなのだ。


「ちょっと、不安定なんですか?」


「ああ、このまま飛び込んだら、狙ったところに行けなくなる。あるいは、帰ってこれなくなる」


「なんで不安定になったんですか?」


「ひょっとしたらなんだが、魔法陣に更新期が来ているのかもしれない」


「魔法陣に更新期があるんですか」


 そう言いながらも、僕はお茶とお菓子の用意にかかる。


 お茶をしながらという部活のスタイルに慣らされてしまっている。


「はい、どうぞ」


 いつものようにテーブルに、お茶とお茶うけを置く。


 お茶は、いつものダージリン、お茶うけはろってが持ってきてくれたクラプフェンだ。


「ああ、すまん……」


 先輩は、魔法陣を睨んだまま、まずクラプフェンに手を伸ばす。


 ハム……


 まるでアニメのキャラが食べるような感じでかぶりつく先輩。


 ザワザワ


「「あ!?」」


 先輩がクラプフェンに齧りつくタイミングで、魔法陣が揺らめくというか騒めく。


「先輩!」


 ムシャムシャムシャ


 ザワザワザワ


 先輩の咀嚼に合わせて、魔法陣は騒めきをシンクロさせる。


 ゴックン


 先輩が呑み込むと、それに合わせて魔法陣は震えて、呑み込み終わると、微妙にボケている。


「クラプフェンが影響しているんだ」


「悪い影響ですか?」


「いや、わたしのステータスが上がって、この魔法陣に合わなくなってきたんだ。そういう力がクラプフェンにあるんだろう」


「ろっての力ですか?」


「たぶんな……あいつも作られた時期は一緒だ。わたしに似た力があるんだろう……新しい魔法陣を探そう」


「探す?」


「あったかな……」


 先輩は立ち上がると、書架の一角にある道具箱を漁り始めた。


 ガチャガチャガチャ


「あった!」


 それは、Lの形をした二本の金属の棒だ。


「ひょっとして、ダウンジングですか?」


「ああ、ほとんど七十年ぶり……うまく使えるといいんだが」


 先輩はL字棒を両手に一つづつ持って構えると、L字棒の指し示す方角に歩き出す。


 L字棒は、瞬間はピクンと警察犬のように方角を示すのだけれど、直ぐに駄犬に戻ったようにグニャグニャといい加減になってしまう。


「どうも、わたし一人では力不足のようだ……鋲、お前も持て」


「僕ですか?」


「他に鋲はおらん」


「はい」


 先輩から一本受け取って、横に並ぶ。


 ピピ


「来ました、先輩!」


「おお」


「「…………」」


 先輩一人の時よりも数秒長くL字棒は、方角、どうやら、部室のドアの方角を指し示すのだけど、三秒もしないうちにデタラメになってしまう。


「……二人が離れすぎていて、感度が持続できないんだな」


「そうなんですか?」


「たぶん、電池を繋げるのと同じなんだ」


「電池ですか?」


「ああ、違う極同士を繋げないと、電池は力を発揮しない。小学生の時に懐中電灯を作る実験とかしただろ」


「はい、接点金具をちゃんとしないと点かないんですよね……って、手を繋ぐんですか!?」


「一番手軽な接点だ……ほら、しっかり指し始めたぞ!」


「は、はい」


 確かにL字棒は一定の方角を指して揺るがなくなった。ちょっと恥ずかしいけど、まあ、これくらいなら。


 手を繋いでL字棒の示すままに進んでいくと、廊下に出て、つぎには旧校舎の外にまで出てしまった。


「先輩、なんか、みんな見てますよ(^_^;)」


「任務のためだ辛抱しろ」


「に、任務ですか……」


 任務と言われては仕方がない、ドキドキしながら進んでいくと、とうとう昇降口の前まで来てしまって、L字棒は、そこで力を失ってしまう。


「ここ……なんですかね?」


 下校のためや、部活に向かう生徒たちがジロジロ、中には面白そうだと立ち止まって見る者まで出てきた。


「いや、L字棒が力を失ったんだ。これでは、まだ接点が弱いんだろう」


「弱いって、じゃあ……」


「こうしよう!」


 先輩はいったん手を離すと、ガバっと僕の肩に手を掛けて、正面から抱き合うように密着した!


「ちょ、先輩(#'∀'#)」


「ほら、力が戻ったぞ!」


 確かに、二人のL字棒は再びピクンと力を取り戻した。


 そして、みんなの注目も何倍も熱くなった!


 放課後の昇降口前で、近ごろ噂の立ってきたアーカイ部の二人がソーシャルダンスみたいにくっ付いているんだから、注目もされる。


 注目の中には、クラスメートの中井さんやカミングアウトも混じっていて、他の生徒よりも感情のこもった目で睨んでいる。


「ちょ、先輩、ヤバイですって!」


「辛抱しろ、これには、要市の、日本の将来がかかっているかも知れんのだぞ!」


「恥ずかしい(#>o<#)」


「動くな! 棒が揺れる!」


「はひ!」


「よし、こっちだ!」


 先輩は、僕をがっちりホールドして、新たにL字棒が指示した方角に進んでいくのであった……。


 


☆彡 主な登場人物


田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部

真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート

田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父

田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって

一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

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