第27話『三人で歩いた先の海』

ピボット高校アーカイ部     


27『三人で歩いた先の海』





 立ち話もなんなので、三人で歩く。先輩は自転車を押しながらろってと並び、僕は、その後に続く。


 貫川の堤防道に出た。


「ええと……ええとですね……」


 話があると、お土産のクラプフェンまで持ってきたろってだけど、話すとなると、なかなか考えがまとまらない感じで、「ええと」と「ええとですね」を繰り返している。


 放課後の堤防は、うち以外にも小中の生徒や、他校生もチラホラ歩いている。


 同じ方向やら逆方向やら、そいつらの視線が痛い。


 アニメからそのまま出てきたんじゃないかって感じの美少女二人といっしょの男は、それだけで社会悪という感じ。


 ガン見する奴こそ居ないけど、痛い視線は、向こう岸の堤防道や、とぎれとぎれに並行している二車線の県道からも感じる。


「ふふ、この雰囲気も楽しいが、このままでは鋲が悶死してしまいそうだ。まとまらなくていいから、話してやれ」


「は、はい……」


「「…………」」


「ヤコブ軍曹が、わたしに託したのは娘さんのロッテのことだけじゃないような気がするんです」


「だけじゃないとしたら、何なんだ?」


「それが分からないんです」


「百年もたってるんですよ……それでも意識が残っている……ちょっと不思議」


「そうだな……」


「託されたのはロッテのこと以外にもあって、それが大事な気がするんです」


「他にもあるというのか?」


「はい……自分で言うのもなんですが、わたしはとても可愛い人形でした」


「むむ(#`_´#)」


「なんで、そこで対抗意識持つんですか!」


「いや、すまん」


「要の人たちも、とても捕虜のドイツ人に優しくて……」


「要は、そういう街だ」


「ロシアの捕虜になったドイツ兵はひどい扱いを受けているって、噂なんかも伝わってきたんです」


「ロシアは革命の真っ最中だったからな」


「捕虜の人たちは思ったんです。要の街のような平和が続いたらいいと……できあがったわたしを見る目には、そういう気持ちが籠っていました」


「そうだな……」


 先輩も、その時代に作られたから感じるところがあるんだろう……僕は、聞き役に徹しようと思った。


「捕虜は何百人も居て、いろんな思いがあったような気がするんです。ヤコブ軍曹は中流の都会人でしたけど、貴族の者も貧しいお百姓出身の兵隊もいましたから……それこそ、国に残した家族を思う者や、ドイツの行方を思う者、世界中の平和を願う者……そういう思いが……あ、海だ」


「おお、知らぬ間に歩いてしまったな」




 僕たちは、要港を臨む河口まで歩いてしまった。




「ドラヘ岩に登ろう!」


 言うと、先輩は自転車を放り出して駆けていく。ろっても後に続いてドラヘ岩に走っていく。僕は砂に脚をとられながらも自転車を担いで防潮堤の傍に立てかける。


「あ、外れてる……」


 乱暴に放り出されて、自転車はチェーンが外れていた。


 チェーンを直し、油と汚れでギトギトになった手を渚の海水で洗ってからドラヘ岩に向かった。




「……そうか、この要の海のような願いだったのだな」


「は、はい。うまく言えないですけど、こんな感じです」




 僕がモタモタしているうちに、二人は岩場から海を眺め、なんだか共通理解に至ったようだ。


 先輩は、腕を組んで右足を一段高い岩に掛け、なんだか海に漕ぎだす女海賊の頭目のようだった。


 僕は、女海賊の雑用係の手下か……まあ、いいけど。


 三人で、しばらく海を眺めて帰った。




☆彡 主な登場人物


田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部

真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート

田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父

田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって

一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

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