第6話『今日の部活はヘソパンから』
ピボット高校アーカイ部
6『今日の部活はヘソパンから』
今日も、おへそで茶を沸かしている。
と言っても、面白いことがあって笑っているわけではない。
おへそ型のガスコンロでお湯を沸かして、お茶を淹れる準備をしている。
「どうだ、ガスコンロでお湯を沸かすというのはドラマだろ」
黙っていれば清楚な美人なんだけど、喋ると男言葉、ズッコケのセクハラ女。でも、時々すごいこと(いろんな意味で)を言ったりやったりする。
お祖父ちゃんに部活の事を、つまり螺子先輩のことを離すと「そりゃ、自己韜晦だろ」という。
ジコトーカイなんて言うもんだから、自我が崩壊していることかと思ったら――内面にすごいものを秘めていて、日ごろは、わざとバカなふりをして人に気取られないようにすること、している様子――なんだそうだ。
クククク……
ほら、また始まった。
「鋲、きょうのお茶うけはウケるぞ」
ああ、初手からダジャレだ。
「え、なんなんですか?」
ちゃんと反応しないとひどいことになりそうなので、笑顔で振り返る。
「これだ、見たことあるかい?」
先輩がトレーを持ち上げて示したのは三角錐の焼き菓子の一種だ。
どら焼きの片方を膨らませて富士山のミニチュアにしたような、大きさは、ソフトボールを半分に切ったぐらい。
トレーの上に四つ並んだ、それは、形がまちまちで、きれいな三角錐になったものから、山頂部が屹立したもの、弾けてしまったものと個性的だ。
「吾輩のは、どれに近いと思う?」
三角錐と屹立したのを胸にあてがって……なんちゅうセクハラだ!
「知りません」
「つれない奴だなあ、ティータイムの、ほんの戯言を咎め立てするとは無粋なやつだ」
「お湯湧きましたから、さっさとお茶にして、部活しましょう」
「部活なら、もう始まっているではないか。鋲が、そのドアを開けて入ってきたところから、すでに部活だぞ」
「ええ、まあ、そうなんでしょうが……」
コポコポコポ……
「鋲は、お茶を淹れるのがうまいなあ」
「うまいかどうか……いつもお祖父ちゃんにお茶淹れてますから」
「おお、それは、孝行な……これはな、ヘソパンという。正式には『甘食』というらしいがな、わたしは『ヘソパン』という俗称が好きだ」
「ヘソなんですか?」
「ん? オッパイパンとでも思ったか?」
「いえ、けして!」
「きっと、出べそに似ているからなんだろうなあ……造形物としては、津軽の岩木山のように美しい三角錐になったものがいいのだろうが、あえて弾けた失敗作めいたものに視点をおくネーミングは秀逸だと思わないかい?」
「そうですね……」
「これに冠せられた『ヘソ』は『デベソ』のことなんだなあ……子どものハヤシ言葉に『やーい、お前のカアチャン出べそ!』というのがあるなあ」
「そういう身体的特徴をタテに言うのはいけないことです」
「そうか、人の顔を見て『ゲー!』とか『キモ!』って言うよりは、よほど暖かい気がするんだが……う~ん、このベタでそこはかとない甘さは秀逸だなあ……早く食べろ、食べたら部活だ」
「部活は、もう始まってるんじゃないんですか?」
「揚げ足をとるんじゃない」
「だって」
「じゃあ、部活本編のページをめくるぞ! どうだ?」
「どっちでもいいです」
「つれない奴だ…………」
「そんなに、ジッと見ないでください、食べられません」
「いや、君が、どこから齧るのかと思ってな……」
「もう!」
僕は、ちょっと腹が立って、ヘソパンを一気に口の中に押し込んで、親の仇のように咀嚼する。
「ああ、そんな……まるで、この胸が噛み砕かれて蹂躙されているようだぞ!」
「モグモグモグ……ゴックン! 胸を抱えて悶絶しないでください!」
「ヘソパンは、しばらく止めておこう……」
「同感です」
「じゃ、今日も飛ぶぞ!」
やっと正常にもどった。
魔法陣で飛ぶと、やっぱりゲートは三角に戻っていた
「しかたない、折り癖が直るまでは油断がならないなあ」
油断がならないのは先輩の方なんですけど……思ったけど、口にはしない。
「じゃ、そっちを持ってくれ……いくぞ!」
「はい!」
ポン!
ちょっと警戒したけど、今度は、さほど力を入れなくても四角になった。
「……なんだか前と同じみたいですね」
「違うぞ、前の地蔵は延命地蔵だったけど、今度のは子安地蔵だ」
先輩に倣ってお地蔵さんに手を合わせ、裏にまわるのかと思ったら、先輩は小川に沿って上の方に歩き出した……。
☆彡 主な登場人物
田中 鋲(たなかびょう) ピボット高校一年 アーカイ部
真中 螺子(まなからこ) ピボット高校三年 アーカイブ部部長
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