第160話 空の旅
ダースから接触があった。
リーン・リッヒや魔導学院の生徒会メンバーらと協議をした結果、静観するという第三の選択肢を提示してきた。
苦渋ながらもエアをドクター・シータに始末してもらいたいという意見で一致はしていたようだが、その場合に俺が敵に回るということを知ると、その意向はあっさりと消失してしまったらしい。
かといって、俺に全面協力してエアを助け出すのにも抵抗がある。だから静観を決め込み、どちらかの脅威が消えるのを待ち、あわよくば漁夫の利を得ようという魂胆なのだ。
「まあいいだろう。静観するのはいいが、邪魔だけはするなよ」
ダースに釘を刺し、俺はドクター・シータがいるであろう場所へと飛んだ。
その場所というのは、主要四ヶ国のあるこの大陸より西方、海の向こうにある未開の大陸だ。ネームド級の強力なイーターが
そのはずだったのだが、以前訪れたとき、イーターの姿はほとんどなかった。おそらくドクター・シータが食い尽くしたのだ。地上からはイーターが消え、空を飛ぶイーターが
俺は飛行しながらそういう考え事をしていたが、いままでであればここらで精霊のエアに話しかけていたところだ。
ザハートから大陸の西端までは高速飛行でも数時間かかるし、そこからさらに海を渡って未開の大陸まで行くとなると、半日近くかかる。退屈しのぎに誰かに話しかけたくもなるというものだ。
飛行機なら寝ていればいいのだが、自分の魔法で飛ぶとなると疲れるため、気を紛らわせたくなる。
だがエアはいない。人成して魔術師となったため、俺とエアは互いに独立したのだ。
そして、いまのエアはドクター・シータに捕まっている。
郷愁じみた感情が、小さな穴からポコポコと顔を出す湧水のように湧いてくる。
そういえば、ドクター・シータにはメターモも取られたのだった。
メターモはドクター・シータの養分となり能力を奪われた。捕食されたのだ。もう二度と戻ってくることはない。
「取られっぱなしだな。いや、金をふんだくったことを考えれば、これで
俺としたことが、ついには独り言をつぶやきはじめた。少し疲れているかもしれない。いや、自分が疲れていることを自覚するのは大事だ。俺は疲れている。
ドクター・シータには万全の状態で挑みたいので、大陸の西端に着いたら少し休むことにした。
ジーヌ共和国の西端には、小さな港町があった。酒場はあるが、レストランはない。食事処としては庶民派な食堂が一軒あるのみだった。
俺はそこで海草サラダと刺身の定食を
ラノベなんかでは、こういう場合にはおいしい海鮮料理にありつけて唐突に食レポが始まるといったことが往々にして起こるが、実際にはそんなおいしい話にはならない。
夕食を終えた俺は、木造のジメジメした宿屋に入った。
ジメジメしているのは壁や床だけではない。布団も湿気ている。外に干しても潮風に
暗いモノローグが続いている。だが、それは俺にとってなんらマイナスの影響を与えない。むしろ安堵するくらいだ。
元々の俺は馴れ合いなんか大嫌いだったし、明るい話も嫌いだった。
他人の不幸話が好物だったし、快適さを求めて自然環境を破壊する人類なんて滅びたほうがいいとさえ思っていた。
元の世界では、人間でありながら人間という生き物を憎んでいた。
こちらの世界に来て、俺はそういった性質がマイルドになった。
それは心のどこかでずっとここが現実ではないと信じていたことも一因だろうし、馴れ合うつもりはなかったのに仲間なるものができてしまったことも一因だろう。
精神的には甘く、そして弱くなった。
この世界の魔法というのは想像力、集中力がすべてだ。魔力などというものは存在しない。
俺は想像の幅は広がったが、集中力は落ちている実感がある。同じ空気の操作でエアと戦ったとき、本家でなくなってしまったエアとの勝負で力負けした。それは一概に集中力が足りなかったからだ。空気操作のバリエーションが少なかった初期のころは、いま以上にパワーがあった気がする。
「初心、か……」
俺はドクター・シータに勝つための自己メンタルケアをおこなっていたつもりだったが、思いがけずエアへの対抗策を思いついた。
俺はエアを助けたい。助けた後、勝負を挑み、勝ちたい。
強者に相対した場合、通常であれば勝って終わりだが、エアだけは特別だ。勝った後に、その先がある。
だが、その前にドクター・シータを打ち倒さなければならない。
奴の能力の種類やパワーは未知数だ。そんな相手には無理に具体的な対策を立てるよりも、じっくりと休んで万全の体勢で挑んだほうがいい。
俺は床に
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