第17話 バトルフェスティバル①
時が経つのは早いものだ。早くもバトルフェスティバルの大会当日が訪れた。
もっとも、俺が学院に入学してからバトフェスまでの日は元々少なかったのだから当たり前ではあるが。
バトルフェスティバルは司会の女と実況の女がテンション高めでまくし立てるように喋っている。
こういう戦闘ものの大会というのも、ラノベではよくある展開だ。特に学園ものに多い。だから初めての経験なのに、新鮮味はかけらもなかった。
いや、かけらもない、は言いすぎか。観衆の熱気たるや、噴火寸前の活火山のごとし。五感に直接訴えてくるこの感覚は活字では味わえない。人気歌手のライブを現地で見るかテレビで見るかの違いと同じだ。
観衆たち皆が周囲の雰囲気に当てられ、沸き立ち、そして相乗的に周囲を沸き立たせている。それらを冷静に観察している俺ですら、その熱気に当てられ、観客全員をいっせいに吹き飛ばしたい衝動に駆られてしまう。
それはともかく、開会式のほうは学院長の代理として教頭の挨拶が済み、選手代表による選手宣誓がなされたところだった。
それから速やかに第一回戦開幕の運びとなった。
司会者からマイクを引き継いだ実況者が、興奮気味に声を張りあげる。
『さあて、始まりましたバトルフェスティバル。実況させていただきますのはこの私、学院のアイドル、ミドセラちゃんです。バトルの司会進行も私がやらせていただきます。そして解説はこちら、我が学院の技術顧問、キサン先生でお送りさせていただきます。よろしくお願いします!』
『はい、よろしくお願いします』
アイドル? アイドルが大会の実況、これもラノベでよくあるパターンだ。いや単なる例えかもしれないが、これに関しては至極どうでもいい設定だ。メディアミックスした際に見栄えがいいからなのか知らないが、活字においては無意味だし、現実味をよりいっそう遠ざける。まさかそれが狙いか? まあ、本当にどうでもいい話だが。
キサン先生という奴にはまだ一度も対面していない。選手控え席のここからでは顔も見えないが、なかなか若そうな声だ。こういうポジションの女性はたいていが三十路とかで結婚に焦りを感じている設定が多い。
おっと、ティーチェと設定が被っている? ここでキサン先生が出てくるのなら、ティーチェが結婚に焦りを感じているという予想は外していたかもしれない。
会場にはルール説明をするミドセラの声が響いている。
『えぇ、バトルフェスティバルは御存知のとおり、トーナメント方式で進めてまいります。そしてバトルの組み合わせは厳正なる抽選のもと、完全なランダムで決定いたしております。よって最悪の場合、四天魔級の猛者がいきなりぶつかることもあり得ますのです。お楽しみに! おっと、いまの言葉、聞き捨てなりませんよね⁉ これまで四天魔の方々はその強すぎる力のために参加が制限されていました。しかし、今回のバトフェスではなんと、その四天魔の参加制限が解禁されているのです。そしてそして今大会、その四天魔の参加者が実際におられます。それも、三名もですよ! 四天魔の枠は純粋な強さの序列であるため、今大会、場合によっては四天魔メンバーの更新が起こり得るかもしれませんね。楽しみです』
ほう、三人か。
俺は何事にも動じないし流されない性質だが、その情報を聞いてしまっては、さすがの俺も
今日、強者をことごとくぶちのめせるというわけだ。
マイクは解説のキサン先生に移り、補足説明が加えられる。補足というより、こちらが本来のルール説明だった。
ミドセラはただ盛り上げるだけで、説明が不十分すぎた。
『最初にルールの確認をしておきます。相手を戦闘不能にするか、降参を宣言させれば勝利となります。審判が危険と判断し中断する場合もあり、この場合は判定により勝敗を決定します。場外やポイントなどのルールはありません。また、殺傷能力のある魔法を使うのは構いませんが、相手を殺しては失格です。大会といえども、殺人を犯した者には相応の罰が与えられますので御法度ですよ。意図していなくても駄目です。戦闘なので相手を怪我させるのは仕方のないことですが、命の危険がある怪我をさせた場合も失格とさせていただきます。くれぐれも健全な決闘でお願いしますね』
結構な無茶を言う。命の危険がある怪我かどうか、その判断は審判しだいだろう。審判が公平ならいいが。
それに能力によってはひ弱な奴を攻撃できないではないか。ま、幸いにも俺の能力は空気だから、やり方はいくらでもある。
『さっそくですが、第一回戦のカードを紹介いたします。注目の一回戦ですが、なんと、いきなり四天魔の一人が登場です! その実力はいまさら語るに及びません。ジム・アクティ選手でーす! そしてそのお相手は、こちらも秘かに注目されている方が多いかもしれません。先日転入したばかりで男子生徒である、ゲス・エスト選手です! 彼の強さは未知数。はたして四天魔といい勝負を見せてくれるのか、はたまた四天魔の痛烈な洗礼を受けることになるのか!』
第一回戦は、いきなりだが俺とゴリマッチョの戦いとなった。盛大な歓声が沸き起こっている。
俺とダース以外のすべての生徒が女子生徒であるため、歓声は酸っぱくなるほど黄色い。
司会はああ言っていたが、観客どもはおそらく、俺が四天魔に瞬殺されると思っているだろう。
『さあ、御両名は中央のリングへと登場してください』
ここ闘技会場は、中央に石のタイルを継ぎ合わせて造られた半メートル厚くらいのリングがあり、それを観客席がグルリと段状に囲んでいる。
観客席はリングより二メートルは高い位置にあり、その最前列の柵の下に見える頑丈そうなコンクリートが客席の地盤を固めている。
客席とリングとの間には、屋外らしく芝生が整備されたスペースがあり、そこにテントを設け、審判や司会、それから救護班が待機している。
肝心のリングの広さだが、直径にして五十メートルくらいだろうか。
俺は声をあげず、手も振らず、礼もせず、観客へのアピールはいっさいおこなわずにリングへ上がった。
対岸からはゴリマッチョ、もといジム・アクティが自慢の肉体をひけらかしながら登場した。
俺は制服を着ているが、ゴリマッチョはレスリング選手が着るユニフォームのような、伸縮性の高そうなユニフォームを着ていた。
黒いので、へたをしたら競泳水着にも見えかねない。
「待ちかねていたぞ、この時を。俺様が貴様を叩き潰すこの時をな!」
猪も顔負けの荒い鼻息に合わせ、手を握ったり開いたりしている。さらには肩を回したり膝を上げ下げしたりしている。
それは準備運動に違いなかった。いや、準備運動はとっくに済ませているだろう。肉体の最終動作確認といったところか。
つまりこいつは、己の体を武器に戦うスタイルということだ。そしてそれは、こいつの筋肉量からも察しがつく。肉体を鍛える必要があるということは、能力が自己強化系である可能性が極めて高い。
ゴリマッチョは興奮気味に俺を煽ってくるが、俺は冷静に相手を分析し、さらに精神面から相手を攻め立てる算段をつける。
試合開始の合図は鳴っていないが、戦闘はうでに秘かに始まっているのだ。
「おまえの能力、自分を強化するんだろ? 肉体のパワーを上げるとか、肉体をカチカチに硬くするとか」
「そうだとも。よく分かったな。俺様の能力は自分強化だ。己の肉体を硬化し、強化し、感覚を鋭敏にする。耐久力、破壊力、行動速度、感知力が大きく向上する。魔導師でない普通の人間では、プロの武闘家でさえ俺様には勝てない。どうだ、怖気づいたか?」
「ふーん、やっぱりその程度か。魔導師のくせに人間の枠を越えられない。まさに
「ほーう、そこまで言うのなら、さぞかしおまえの魔法は強力なのだろうな。そんなおまえの魔法は、いったい何なんだ?」
「え? 言わないけど」
俺の返答があまりに思いも寄らなかったのか、ジム・アクティはポカンと口を開けて立ち尽くした。
しだいに顔が赤く染まっていき、
「言わないだと? 馬鹿な! 礼儀がないにも程があるだろ! 俺様は懇切丁寧に自分の魔法の説明をしてやったというのに、貴様は……」
「ああ、本当にご丁寧に説明してくれて、とんだお間抜けさんだな、あんた」
ジム・アクティは顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。会場が揺れる。
試合開始の合図はまだ鳴っていない。いまの時点で攻撃したら失格となる。
「卑怯だぞ! 自分だけ相手の能力を聞くとか、そんな、卑怯ではないか!」
「馬鹿か? おまえが勝手に喋っただけだし、おまえが喋る前に俺はおまえの能力を見抜いていた。それに俺がいつ誠実だと名乗った? 卑怯だろうが卑劣だろうが、手段は選ばないし、容赦もしない」
「そんな馬鹿な! 卑怯だと言われてそれを認める奴があるか! 汚名だぞ。おまえはそれをよしとするのか⁉」
「ふん。卑怯という言葉は俺にとっては
「馬鹿にするな! 勝てるに決まっている!」
「じゃあ、いいよな」
ジム・アクティは言葉を
もっとも、こんな奴が本気を出せたところで負ける気はしないが。
『ええ、なにやら揉めているようですが、よろしいでしょうか。それでは、注目のバトルフェスティバル第一回戦、開始です!』
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