『おーぐ、ほしい』 10


 『人間さんは、われわれ牛属を、甘く見ていることが多くて、ひたすら食糧にしたり、無理矢理たくさん乳をしぼってしまうので、あなたの世界の乳牛は最後にはくたくたになり、一生を終えることが多いです。しかし、われわれの知能は、まあ、使い方にも依りますが、かなり高いのです。あなた方の世界では、なかなか、人類には対抗できないですが、ここは違います。人間さんは、少数しかいないので、権力は持ちません。みな、仲間です。われわれは、われわれの健康を保持しながら、良い製品を作ります。どうぞ。』


 ぼくは、工場の内部に入りました。


 でも、そこは、工場というより、敢えていえば、リラックス施設、保養所、というような感じです。


 『搾乳は、大概、自分でやります。無理のない範囲でです。なかに、多少、ぶきっちょといいますか、手伝ってもらう方もいますけどね。子育てと、両立させるのが、まずは、基本です。もちろん、恋愛の機会が大切です。子どもは、別室で、保育牛が育牛します。』


 『なるほどお。みな、生き物ですしね〰️〰️。ぼくは、恋愛は苦手でしたが。』


 『まあ、うしそれぞれ。ひとそれぞれですから。』


 『うん。そうですよね。』


 工場長さんに、慰めてもらったわけです。



 施設は、美しく保たれています。


 『音楽も、好みに応じて聴くことができます。テレビもあります。あなたの世界の音楽では、ショパンさんが人気です。あまり、長くないし、聴きやすいのです。』


 『それは、人間もいっしょですよ。演奏は難しいですが。』


 『そうなんです。そうなんです。実際、演奏したいという、うしさんもいるのです。そこで、問題があって、ご承知のように、我々は、蹄があり、ピアノにはちょっと向かないです。いま、大学で、うしさん用のピアノの開発が行われています。』


 『すごいなあ。大学って?』


 『この世界には、大学が100以上ありますが、その研究をしているのは、中央牛大学です。なかなか、合格は難しいです。とくに、人間さんには。』


 『はあ。なるほどお。』


 ぼくは、なんだか、ひどく、感心しました。


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