『おーぐ、ほしい』 4


 そこは、みさか峠と呼ばれました。


 はるか眼下には、この島を代表する街があり、そこでは、40万にのぼる人々が暮らしていたのです。


 しかし、この峠から先は、深い深い山の中に分け入って行くのです。

 

 ただし、この深い山間部は、まだ、謎を秘めた場所だったのです。


 『あなたのお父様は、夢の多い人で、優秀な頭脳を持っていましたが、あまり豊かではなかったので、高等小学校を出たあと、高校に進学することもなく、戦地に活路を求めて、はるかな大陸に渡りました。そこで、製鉄の仕事に就きました。それは、ご存じでしょう?』


 『はい。しかし、それ以上もそれ以下もない、それくらいしか知りませんよ。』


 『まあ、よろしいでしょう。戦地の話しは、あまりしたくないものですわ。お父様の背中には、肉が大きく抉られた痕がありましたね。』


 『ええ、たしかに、弾丸が貫通したらしいです。でも、なぜ、あなたがそれをご存じなのでしょう?』


 『ほー、ほほほほほ。まあ、若い時代には、様々なことがあるのです。』


 『はあ〰️〰️〰️。でも、あなた、そんなに、お若いのに。』


 『まああああ。ありがとう。あたくしにとって、年月は、回りを流れ去る水のようなものですわ。』


 『水のようなもの、ですか。ふーん。』


 『あまり、考えないでください。さあ、目的地に向かいましょう。日がくれますよ。』


 たしかに、スタートが遅かったので、もう、昼前になってはいたが、いったい、どこまで行くというのだろう。


 『いわゆる、ヨーグルトは、世界各地にありますが、日本で造られるようになったのは、明治20年代といわれます。


 あなたのお父様がお生まれになるほんの少し前に、いまもある、広島の会社が『ヨーグルト』を発売していました。


 けれど、本格的には、戦後になってからで、瓶に入ったヨーグルトは、ゼラチンなどで固められていました。


 なかなか、一般には理解されなかったようです。


 あなたは、瓶に入った、ヨーグルト、いえ、おーぐ、を探していますね。』


 『そうなんです。最近は、プレーンタイプのヨーグルトにしていますが、むかしのおーぐ、は、確かに、ちょっと、お菓子みたいに美味しかったように思います。』


 『正解。ヨーグルトには、主に牛さんの乳が使われますが、それだけではなく、世界では様々な原料があり、大豆を使うものもあります。でも、おーぐ、は、牛さんです。ただし、特別な、牛さんです。』


 『特別な?』


 『はい。まあ、論より証拠。さあ、参りましょう。』


 レストランで、昼食という手もありましたが、この際、お弁当にしましょう、と、言われ、彼女がふたつ買いました。


 代金は、受け取ってもらえませんでした。


 ぼくたちは、人力車に寄りかかって、タバコをふかしていた、かの引き手のおじさんに、出発を告げました。


 『あいよ。ゆきやしょう。』


 ちょっと、このあたりの方ではない感じです。


 微妙な頭巾を被って、手袋、作業足袋を履いているので、やはり、姿はよくわかりません。


 人力車は、軽車両の扱いなんだとか。


 観光用の人力車は、各地にありますが、こんな長距離を走るのは、まあ、現代には、あり得ないように思います。



  🌳🌳🗻🗻⛰️⛰️⛰️⛰️🌳🌳🌳🌳🌳

        

            

        つづく………



 

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