『おーぐ、ほしい』 3


 人力車は、繁華街を駆け抜け、やがて郊外の、ちょっとした、高原地帯のような、だだっ広い土地を、まるで一陣の風みたいに進んで行きました。


 最初は、かなり怖かったけど、次第に慣れてくると、結構気持ちよくなってきました。


 街の中心部の、やや、淀んだような大気は、次第に浄化されてゆき、あまい香りに満たされて行きます。


 自動車だと、ちょっと分かりにくいかもしれませんが、この高速人力車だと、前方がぐがっと開かれているため、大気の流れがそのまま顔や体にぶつかってくるのでした。


 それにしても、休むこともなく走り続ける、車夫さんは、たいしたもんだ。


 いったい、なにものなのでしょう。


         


 やがて、しかし人力車は、強烈な上り坂にさしかかります。


 それはもう、道自体はよく整備されているけれど、ぐにゃぐにゃと曲がりくねった山道なのです。高度はぐんぐん上がって行きます。


 『こりゃあ、歩いて上がるのさえ、憚られるなあ。なんで、こんなに、走り続けられるのでしょうか?』


 ぼくは、横に平然と座っている彼女に尋ねました。


 『それができるから、このお仕事をやっているのです。』


 『はあ。ま、そりゃそうでしょうけれど。』


 『ほほほほ。まあ、そうはいっても、まだ、先は長いです。峠のレストハウスで、休憩しましょう。ちょいと、あなた。あそこで、休憩よ。』


 『へい。わかりやした。』


 まったく、息切れした様子もなく、車夫さんは答えました。


 まさに、峠の頂点の曲がり角に、わりに、大きなレストハウスがあります。


 小綺麗な食堂もあり、展望台もありました。


 眼下には、あの街並みが広がります。


 さらに、その彼方には、ぼくが渡ってきた海が見えています。


 まさに、絶景というべきでありました。



             ⛵

         ⛰️ 〰️〰️〰️〰️〰️〰️

 


           つづく………

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