第122話 チーム・ゼフォンの弱点
破竹の勢いで上級トーナメントの決勝戦に勝ち進んだチーム・ゼフォンの相手はチーム・ルキウスだった。
バランスの良いチームで、メンバー全員のレベルが高い。
チームのリーダーであるルキウスは、武器種別の弓部門で優勝経験もある弓の名手であり、同時に魔法も使いこなす魔法弓士であった。
メンバーは盾役の前衛に槍士と剣士が1人ずつと、後衛に魔法士と回復士が1人ずつという構成だ。
このチームの最大の武器はその分析力だった。
彼らは決勝でぶつかるチーム・ゼフォンの分析を行っていた。
決勝に進むまで、まったくの無名だったチーム・ゼフォンのことなど知らなかったのだ。
「これまでの試合を分析すると、ゼフォンは雷属性の槍スキルと広範囲に展開できる
チームの魔法士の男が報告書を手に、それぞれの特徴を読み上げていた。
ルキウスはテーブルの上に広げた紙に、対戦相手の名前とスキルを書き込んでいる。
「驚異的なのは、彼らの魔力量です。最初から最後まで強力なスキルを使用していましたが、まったく魔法の威力が落ちる気配がありませんでした」
「上級魔族というものは、魔力も桁違いなのかもしれないな」
剣士が腕組みしながら云うと、回復士と槍士もそれに意見した。
「あれだけ強ければ、回復士も必要ないのでしょうね」
「そもそも魔族は回復手段がないんだ。それでここまで勝ち上がってきたのだから、それに見合うだけの実力があるということだろう」
彼らの話を聞いていたルキウスが口を開いた。
「となると、やはり長期戦に持ち込んで、魔力切れを狙うしかないようだ。前衛2人でゼフォンを抑えられるか?」
「回復があれば私1人でもある程度なら持ちこたえられると思う」
そう話すのは槍士の男だ。
「頼もしいな。では回復士の君に魔力回復用ポーションをいくつか渡しておこう」
「ありがとうございます、ルキウスさん」
唯一の女性である回復士は、ルキウスに頭を下げた。
「では俺はイヴリスを担当しよう」
剣士の言葉に、ルキウスは「頼むよ」と云った。
彼らはリーダーであるルキウスに絶対の信頼を置いているのだ。
魔法士は咳ばらいをすると、報告を続けた。
「弓士のマルティスは上級クラスの使い手ですが、特に突出した能力は認められません。普通に物理防御でいけるでしょう。それよりももっと謎なのはもう1人の方です」
「あの、魔法具の女か」
剣士が答えた。
「この前の試合を見たが、子供だましだと思ったが、確かに水が口に入ると詠唱ができなくなる。なかなか有効な武器だな」
「ええ。水を自在に操って発射させる特殊な魔法具をよく使いこなしていると思います。ですが、あの魔法具を使うだけなら、わざわざあのパーティにいなくても良いと思いませんか?」
「ああ、あれならば上級魔法士を1人入れた方がもっと強くなるというのは皆が言っていることだね」
ルキウスは観客たちが最近話題にしていることを発言した。
「確かに中級トーナメントあたりから、あまり存在意義がないと話題に上っていたようだ」
「なにか理由があるのだと思います。あの女でなくてはならない理由が」
魔法士の云う理由を一同は考えたが、誰も思いつかなかった。
そこで口を開いたのはルキウスだった。
「彼らの試合を見ていて、ずっと違和感を感じてたんだ。あの魔法具の彼女、本当に魔族なのか?」
「はい、それは間違いないです。他の魔族の闘士にも確認しました。ものすごい上級魔族のオーラを纏っているそうです」
「そうか…」
「人間ならば、魔力供給ということも考えられるんですが、あの女は魔族だし、仮に人間の回復士だったとしても魔族が相手では回復などできませんわ」
ルキウスの疑念は回復士にあっさり否定されてしまった。
「ならば、先にその女を倒してみたらどうだ?それで役目がわかるかもしれん」
「しかしそう簡単にいくか?ゼフォンとイヴリスの防御と反射はかなり厄介だぞ?」
仲間たちの発言を聞いていたルキウスは、思いついたように云った。
「もしかしたら、彼女があのチームの弱点なのかもしれない」
「弱点?どういう意味です?」
魔法士がルキウスに尋ねた。
「彼女をパーティから外さないということは、逆に言えば外すと困ることがあるから、ともいえる。外したくても外せない何かがあるんだ」
「それは一体なんです?」
「それを知るためにも、試してみようじゃないか」
ルキウスは不敵に笑った。
そしてついに上級トーナメントの決勝戦の日がやって来た。
闘技場は立ち見が出る程の盛況ぶりだった。
闘技場上階バルコニーに設けられたVIP席には魔王とサレオスの姿があった。
テスカとジュスターを除く聖魔騎士団もその後ろに勢ぞろいしていた。
彼らに闘技場について説明を行っていたのは、一足先にこの地に潜入していたユリウスだった。
「闘士の立っている闘技場内と客席の間には見えない魔法のバリアが施されています。SS級魔法士の攻撃でも破れない程のかなり強力なバリアが二重に展開されているので、闘士側からも客席側からも攻撃や回復など試合に干渉したり、物を投げ込んだりはできないようになっているそうです」
ユリウスの説明を魔王は不機嫌そうに聞いていた。
「おまえは、我がトワの敵に攻撃するとでも思っているのか」
「トワ様に万一のことがあれば、誰かが対戦相手に手を出してしまいかねないと思いましたので」
「フン、余計な世話だ」
魔王はそう云ったが、彼自身、もしそのような事態になった時、力を使わないという自信はなかった。
それは聖魔騎士団全員も同様だった。
各地に潜入してトワの行方を捜していた聖魔騎士団の面々は、つい先日セウレキアで顔を揃えた。
彼らは初めて見る闘技場に戸惑っていた。
「本当に、こんなところでトワ様が試合をなさるというのか…?」
カナンは大勢の観客を目の当たりにして、不安そうに云った。
「トワ様を見せ物にするなんてありえん。一刻も早くお助けするべきではないのか」
「まあ、まあ、クシテフォン。それに関してはユリウスが説明してくれたじゃないか」
怒るクシテフォンを宥めたのはアスタリスだった。
そうしている間にも、闘技場内に闘士たちが入場してきた。
ゼフォンやイヴリスに続いて、栗色の髪をしたトワが入ってきた。
バルコニーに身を乗り出してそれを見ていたネーヴェは、思わずユリウスを振り返った。
「あれ、本当にトワ様なの?」
「ええ。髪色を変えていますが、ご本人です。別人のように見えますがね」
「よもやこんな場所でトワ様を見ることになろうとは…おいたわしい。あの連中、ちゃんとトワ様を守れるのか?」
カナンの意見は皆の気持ちを代弁していた。
トワたちに続いて、相手チームが入場してくると、観客席は割れんばかりの歓声に包まれた。
賭けは、実績のあるチーム・ルキウスの方が人気が高いのだ。
彼らを見て、クシテフォンが呟いた。
「そもそも相手の方の人数が1人多いではないか」
「あー、ほんとだ。不公平じゃん!」
ネーヴェが文句を云った。
それへユリウスが彼らを諭すように説明した。
「ルール的に問題はありません。ですが頭数が多ければ良いというものでもないのですよ。あのゼフォンという魔族、なかなかの使い手ですし、彼がいれば人数の差など問題ではないでしょう」
「へえ?ユリウスがいうのなら相当なものなんだね。カナンとどっちが強い?」
「もちろん、カナンです」
ユリウスは即答した。
ネーヴェは「だよね」と笑った。
「それにしても、すごい人だなあ。こんなに大勢の人間を見るの、初めてかも」
ネーヴェが感心するだけあって、闘技場には入りきれない程の観客が詰めかけていた。魔族もチラホラいるが、ほとんどが人間だった。
「私が潜入していたゴラクドールには、ここよりももっと大きなホールがありましたよ。もっともそこには人間しか入れませんけどね」
「そういうとこだよね。人間が嫌われるの」
ネーヴェは冷たく云った。
「あ、そろそろ始まるみたいだよ」
満員の観客が見守る中、ついに決勝戦が始まった。
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