第41話 森の中
食糧調達のために森に入った聖魔騎士団のメンバーは、2組に別れてそれぞれ役割を決めた。
カナンをリーダーに、ネーヴェ、テスカのチームは、魔物を探して森の奥へと入って行った。もう一方のアスタリスとクシテフォン、<食材鑑定>を持つユリウスのチームは、木の実や果物などを探してそれぞれ活動を開始した。
彼らは食材探しに夢中で、森の奥深くまで入り込んでいた。
カナンのチームはさっそく獲物を見つけて追いかけていた。
その獲物は巨大なイノシシのような姿のドレイクボアという魔物だった。
魔の森に生息する一般的な魔物で、その肉は美味で皮は防寒具として重宝されている。
鋭い大きな牙と突進力を持つが、前進することしかできない単純な獣であり、難なく狩ることが出来た。
一方、クシテフォンのチームも大量の成果を上げていた。
クシテフォンは、ユリウスが<食材鑑定>で指示した果実などを木の間を飛び回って収穫し、下で袋を持って待ち構えていたアスタリスに投げていた。
ユリウスは落ちている木の実やきのこ、花の蜜などを集めていた。彼の<光速行動>が大量収穫に一役買っていた。
「ここの実りはすごいな。果実の大きさも申し分ない。これだけあればしばらくは大丈夫だな。ジュスター団長に冷凍保存していただこう」
収穫を終えてクシテフォンが木から舞い降りようとした、その時だった。
「うおっ!?」
悲鳴に驚いて、アスタリスが木の上を見上げると、クシテフォンが、木の枝の間に仕掛けられていたロープに翼が絡まった状態で浮かんでいた。
「クシテフォン!?大丈夫?」
「ああ…、なんともない。うっかり小動物を捕獲するための罠に引っ掛かってしまったんだ」
「罠…?」
「この近くに森の民でもいるんだろう。我々は知らずにその縄張りに足を踏み入れてしまったようだ」
クシテフォンは絡まったロープを自分で解いた。
「そうか…誰かの縄張りって可能性もあるんだ。もしそうなら、理由を話して収穫する許可を貰わないといけないね」
アスタリスは神妙な顔つきで、森の中を見渡した。
「あれ…」
「どうした?」
「<遠見>を使っているのに、いつものように見えない…」
アスタリスが目を擦っていると、ユリウスが袋を担いでやって来た。
「おそらく魔の森の防御反応でしょう。森の中では方向感覚が麻痺したり、特定のスキルが使えなくなることがあると聞いたことがあります。それは森自身が、森で生きる民を守るためだとも言われています。…気付いていますか?さっきから<
ユリウスは小さな可愛らしい薄いピンク色の花を手にしながら呟いた。
「え…!本当だ。団長に連絡できない」
「カナンたちとも連絡が取れないようだ」
「この森が我々を受け入れてくれていないということでしょうね」
「この近くに森の民がいる証拠だな。我々を侵入者として警戒しているのだろう」
「小さい頃に聞いた御伽噺に、森には目に見えない精霊が住んでいるという話があるんです。もしかしたら、森の民はその精霊たちに守られているのかもしれません」
ユリウスの答えに、クシテフォンは周囲を見渡した。
誰かに見られているような、妙な気配を感じた。
「まんざら与太話でもないかもしれんな」
「僕らとトワ様みたいに、精霊と契約でもしてるんでしょうか」
「さあ、どうでしょう。ともかく一旦、団長たちの元へ戻りましょう」
「そうだね、食料も十分収穫したし」
クシテフォンのチームがパンパンに食料の入った袋を担いで森の入り口まで戻ると、カナンたちが既に戻ってきていた。
「早いな、カナン。首尾は?」
「上々だ。あれを見ろ」
クシテフォンがカナンの指差す方角を見ると、輪切り肉がはみ出している大きな袋がいくつも置いてあった。
「おお、さすがだな」
「ところで魔王様とトワ様のお姿が見えませんが」
ユリウスがきょろきょろと辺りを見回した。
「うん、僕らが戻って来た時には馬車もなくってこの敷物だけが残されていたんだよ。だからアスタリスが戻ってきたら探してもらおうと思ってさ」
ネーヴェがジュスターのものらしきマントを両手に持ってひらひらと振った。
その言葉を受けて、アスタリスは<遠見>を使ってみた。
「ダメだ、どうしても森の中だけは視えない」
アスタリスの報告に、皆は肩を落とした。
「やっぱり『魔の森』がスキルを遮断しているのか。まだ<遠隔通話>も通じないしな…」
「ということは、団長たちは森の中にいるということになりますね」
ユリウスの指摘に、カナンは眉をひそめた。
「俺たちの帰還を待たずに森の中に移動するなんて、考えられないんだがな」
「何か不測の事態でも起こったのでしょうか」
「まさかトワ様たち、誰かに襲われたとか?」
ネーヴェが緊張した顔で云った。
「俺とテスカで空から探してみる」
有翼人のクシテフォンとテスカが空へ舞い上がった。
森を見下ろせる高度まで上昇し、森を俯瞰で視認する。
「う~ん、この森、随分と広いよね」
「ああ。おまけに木々が生い茂っていて森の中まで良く見えないしな」
「トワ様、どこ行っちゃったんだろう?団長と魔王様、カイザー様がついているから、大丈夫だとは思うけど…」
「ともかく手分けして探そう」
「うん」
クシテフォンとテスカは森の上空を飛び回った。
しかし、馬車もトワたちも見つけることはできなかった。
『クシテフォン、どうだ?』
「カナンか。今のところ、何も見つからん」
しばらく飛んでいると、突然クシテフォンの前に森の中から何かが飛び出してきた。
「…っ!?」
それは小さなドラゴンだった。
「カイザー様!?」
『おまえたちを迎えに行けとトワに命じられてな』
「トワ様たちはご無事なのですか?」
『ああ。説明は後だ。残りの連中はどこだ?』
「あちらです」
こうして聖魔騎士団は、カイザーの案内でトワたちの元へと向かうことになった。
彼らは食料の入った袋を縄で縛って数珠繋ぎにし、元の大きさに戻ったカイザードラゴンの首にネックレスのように巻き付けた。有翼人の2人を除く聖魔騎士たちはその縄を手綱代わりにして、ドラゴンの背に乗った。
飛行中に振り落とされぬよう、彼らは必死にしがみついた。
「うわー、高いね!」
『この高度を保たねば上空から村へは行けぬ』
「へえ~、クシテフォンたちが見つけられないわけだ」
「おい、ネーヴェ、手を離すなよ。落ちるぞ」
「落っこちたらクシテフォンが拾ってくれるんでしょ?」
クシテフォンとテスカはカイザードラゴンの両脇を飛んでいた。
ネーヴェの云う通り、誰かが滑り落ちた時に拾い上げるためだった。
「ああ、片足を掴んで逆さ吊りのまま飛んでやるよ」
「えー!それはやだ!」
「だったらしっかり掴まっていろ」
緊張感の欠片もないこのやり取りに、皆は笑っていた。
『おまえたち、少しうるさいぞ。トワの命令だから仕方なく乗せてやっているが、本来は主以外乗せないのだ。光栄に思え』
「はーい、ありがとうカイザー様!」
「ありがとうございます」
『…わかればよい』
「トワ様もこうやって乗って行けたら早く魔王都につけるのにね」
『魔王の魔力が戻ればそれも可能だろうが、今は無理だな。それとも今おまえたちがしているような乗り方をトワにさせるのか?』
「それは無理。可哀想だよ…」
ネーヴェはそれきり口を閉じた。
「ところでカイザー様、どこへ向かってるんです?」
カナンがカイザーに尋ねた。
『トワたちは、カマソの集落にいる』
「カマソ?」
『この森に住む魔族の隠れ里だ。慣れた者でなければ森の中を歩いてたどり着くことは難しい』
「どうしてそんなところに…」
『まあ、行けばわかる』
カイザーに乗って森の上空を飛んでいると、一部だけ森の木が伐採された広場が見えた。カイザーは急降下してその広場の真ん中に着地した。
そこには大勢の人々が集っていた。
「あ、来た来た。やっほーみんな~!」
「トワ様!」
「ご無事ですか!?」
私が手を振ると、聖魔騎士たちはカイザーの背から飛び降りて駆け寄ってきた。
カイザーの首からぶら下がっている大荷物を見て、私は声を上げた。
「すごい収穫じゃない!」
聖魔騎士たちはカイザーの首から食料の袋を地面に降ろした。
ジュスターは、多くの収穫を持って帰ってきた彼らにねぎらいの言葉をかけた。
「団長、何がどうなっているんです?この者たちは…?」
カナンがジュスターに問いかけ、周囲を見回した。
そこには大勢の魔族たちが集っていた。
見た所、上級魔族も混じってはいるが、ほとんどが中級かそれ以下の魔族だ。
そして、その中央に置かれた椅子には、少年魔王が偉そうに座っていた。
「おまえたち、ご苦労だったな」
魔王の言葉に、聖魔騎士たちは全員膝を折り、頭を下げた。
その時、一人の壮年の魔族が前に出て、彼らに丁寧に挨拶をした。
「ここはカマソの村です。私は村長のジェンマと申します。魔王様御一行を歓迎いたします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます