第34話 作戦会議
「たった7人で砦を落とせだなんて、ひどくない?!」
魔王が出した条件に、私はプリプリ怒っていた。
しかも今回、私は同行を禁じられていて、彼らを回復してあげられないというハンデ付きだ。
なのに彼らはそれを素直に引き受けたのだ。
急にどうしてこんな難題を云い出したのか、私には理解できなかった。
数千人からいる砦を、たった7人だけで落とせだなんて、嫌がらせとしか思えない。人間側とは休戦協定を結んでいるのだから、砦を落とす必要なんてないはずだ。
私が彼らを勝手に率いてきたから、それが気に入らなかったの?
彼らの実力が見たいのなら、もっと別の方法もあるはずなのに、どうしてこんな命がけな方法を取らせるのだろう。
考え直してくれるように魔王に掛け合ったけど、ちっとも聞き入れてくれなかった。
考えれば考える程、イライラしてくる。
ユリウスが差し入れてくれるお茶とお菓子が無かったら、とっくに大爆発を起こしている。私の怒りを鎮める役目まで彼らに担わせてしまって、悪いとは思うのだけど、どうにも腹の虫が収まらない。
聖魔騎士団に任じられた7人と私は、下級兵士用の食堂の長テーブルで顔を突き合わせて話し合っていた。
「皆はそう思わないの?」
「いえ、魔王様のおっしゃることもわかります」
「仕方ないんじゃない?トワ様って、本当にスゴイ方だしさ。そんな方を僕らがちゃんと護衛できるのか、実力を見せろってことだと思うよ」
ジュスターとネーヴェが素直な気持ちを云った。
「そうかもしれないけど…」
「大丈夫です。やって見せますよ」
「私たちには、トワ様からいただいた力がありますから」
カナンとユリウスは自信ありげに答えた。
彼らは一度、砦を突破して来ている。
その自信からなのか、砦攻略の案を次々と出していて、本気で落とそうとしていることがわかった。
意見は白熱していき、話は魔力の温存をどうするかという話になっていた。
私がいれば魔力も回復できるから、そんな心配いらないのに。
おまけに、この基地には今物資が少ないから、彼らにまで回る武器の予備はないとも云われている。本当にハンデだらけだ。
「…見えないところで皆が戦うの、不安だな…」
私がそうボヤくと、アスタリスが半分冗談で云った。
「僕が見ている映像をトワ様にもお見せできたらいいのですけど」
「そうよ、アスタリス。見せて欲しいわ」
そう云った途端、アスタリスの体が光ったので、私も彼も驚いた。
「おい、まさか今の…」
カナンが恐る恐る尋ねた。
「あは…は…。<視覚共有>スキルだって…」
「マジ?」
冗談で云ったことがまさかの現実になった。
他のみんなも「すげー!」と、どよめいていた。
こんな時でも<
アスタリスによると、このスキルは<遠見>スキルを使用している間、彼の体に触れていると、彼の視ている映像を共有して視ることができるというものだ。
だけど、それを見るためには、アスタリスと一緒にいなくちゃいけない。
私は戦場に行けないから、どのみち彼らの仕事を見ることはできないのだ。
アスタリスは苦笑いしている。
「ねえ、やっぱり私もこっそり連れてってくれない?カイザーのスキルで守ってもらうからさ」
「トワ様、それは…」
アスタリスが戸惑った表情をしていると、背後から声がした。
「トワ様は基地から出てはいけません。魔王様のご命令です」
私に釘を刺したのはサレオスだった。
「サレオスさん…!?」
下級魔族の集まる食堂に、サレオスみたいな高級将官がいるのは、ものすごく違和感があった。
私たちの様子を見に来たのだろうか。
「魔王様のご命令で、緊急事態に備えて私が一個中隊を国境近くに待機させることになりました」
「緊急事態って…?」
「彼らが全滅した時に備えて、です」
「全滅…!?」
私は思わず椅子から立ち上がった。
「魔王はジュスターたちが全滅するかもしれないと思ってるの?それに備えてサレオスさんを待機させるって、はなから信用してないってこと?」
「私が魔王様に進言し、了承を得ました。念のための処置です」
私はカッと頭に血が上った。
魔王が、最初から失敗するかもしれないと思いながら彼らに無理難題を押し付けたということに、怒りを覚えたのだ。
「そんなの、酷い…!どうして?サレオスさん、どうして止めてくれないんですか?だいたい、砦とは休戦協定があるはずでしょ?」
「休戦協定の期限は3日前に切れており、延長の申し入れはありませんでした。問題ありません」
「そんな…」
「トワ様、大丈夫です。我々は全滅などしません」
隣に座っていたジュスターが、私を宥めようと声を掛けてくれた。
私は再び椅子に座りなおして、落ち着きを取り戻した。
「アスタリスはトワ様と基地に残ってくれ」
ジュスターの言葉に、今度はアスタリスが立ち上がった。
「そんな!僕も戦います!」
「おまえの能力ならば、基地の屋上からでも砦全体を見渡せるだろう。逐一敵の動きを<遠隔通話>で伝えてくれ。そして我々の戦いをトワ様にお見せするのだ。これはおまえにしかできぬことだ」
「…でも…僕、お役に立ちたいです…」
アスタリスは俯いて、下唇を噛みしめている。
…私のせいだ。
これじゃパワハラだ。
たった7人しかいないのに、そこから外されてしまうなんて…。
私があんなこと云わなければ、こんなことにはならなかった。
アスタリスだって悔しいに違いない。
「ごめん、アスタリス。そんなつもりじゃなかったの。私おとなしく待ってるから。ジュスター、アスタリスを外さないであげて」
「トワ様…」
アスタリスが私を悲し気に見た。
「私はただ、皆が心配だっただけなの…。ごめん、皆が大変な時に、こんなわがまま言うなんて、主人失格だよね」
私がそう云うと、彼らはすぐに「そんなことはありません!」と云ってくれたけど、なんか気まずい。
でもその場を収めたのはアスタリス自身だった。
「トワ様は主人失格なんかじゃありませんよ。…僕こそすいません。トワ様は僕らを心配してくれて言ってくださっているのに、そんなお気持ちも考えずに僕は、自分が活躍することばかり考えてて…恥ずかしいです。ジュスター様、僕はトワ様と基地に残って、自分の役目を果たします」
アスタリスはそう云って、座りなおした。
「で、でも、本当にいいの?」
「はい。いいんです。僕の役目は、トワ様のお願いを叶えることですから」
「アスタリス…ごめん…」
「もう、謝らないでください。僕が自分で決めたことですから」
彼は本当にいい子だ。
私のせいにしてもいいのに。
「頼んだぞ、アスタリス。おまえには砦を客観的に見て、我々の想定外のことが起こった場合、いち早くその状況を<遠隔通話>で報告して欲しい」
「はい、心得ました」
アスタリスはもう迷ってはいなかった。
そうして彼らは6人で砦を落とす算段を始めた。
まずカナンが報告をした。
「こんなこともあろうかと前回、俺は砦の中を抜ける際、建物の構造を見て回りました」
カナンは、砦は一見石を組んで積み上げた強固な建物に見えるが、実は上に行くほどレンガや木材などの軽い壁材が混じっていたことを見抜いていた。おそらく資金の問題か材料不足のせいなのだろう。
あれなら下を崩せば労せず建物全体を破壊できると云った。
カナンの話に、ジュスターたちは興味深く聴き入った。
この前、ただ砦を通過しただけじゃなくて、あの状況でもちゃんとそんな分析をしていたなんて、さすがだなと感心した。
「じゃあさ、僕が石材を脆くさせる腐食液を作るよ。旅の間にいろいろ素材が揃ったから、試してみたいんだ」
今度はテスカが提案した。
するとジュスターがその案を採用すると云った。
「それを作るのにどの程度かかる?」
「建物全体分だからそれなりの量がいります。3日貰えるとありがたいです」
「わかった。では作戦決行は準備期間を含めて5日後としよう。問題は国境の壁の<
ジュスターは、自分1人ならば突破できるのだが、と前置きをした上で魔族たちに意見を求めた。
すると、クシテフォンが手を挙げた。
「俺も、この前砦上層部に上った時、確認してみたんです。あれは雷属性の魔法を利用している<防御壁>のようでした。あれならば俺の<魔法吸収・放出>スキルで対応できそうです」
「さすがはクシテフォン、頼りになるぅ!」
「茶化すな、ネーヴェ。おまえにも壁の破壊を手伝ってもらうぞ」
「うん、任せて」
なんだか彼らからは余裕すら感じられる。
今回は砦を落とすことが目的だから、相手にする兵の数も半端ないはずなのに。
彼らにはできるだけ人間を殺さないでとは云ってきたけど、今回は彼らの裁量に任せることにした。
皆の命を危険にさらしてまで、敵対する砦の兵士を助ける道理はない。
全部を救おうなんて、甘い考えは捨てないと大切なものは守れないということに、彼らとの旅を経て気付いたのだ。
「意見はまとまったようだな。おまえたちの手際、見せてもらおう」
サレオスは、笑いながら去って行った。
別に、サレオスは悪くないのだけど、その余裕ぶりが癪に障った。
「皆、絶対に勝ってね。魔王に実力を認めさせるのよ!」
私の激に、皆は「おお!」と手を挙げて応えてくれた。
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