第38話 旅立ち②
「え?リカコさん、離婚できたん?」
「アタシを殴った後、アイツ、車で逃げてんけど信号機にぶつかってケガしてね。歩けなくなってしまったんよ。」
リュウともと子は二人揃って顔を見合わせた。
「もしかして、リカコさんが運ばれる途中のあの事故か?」
「たぶんそうだと思う。ここから出てすぐ事故ったらしいから。もと子さんが投げたケーキのクリームが垂れてきて、一瞬前が見えなくなってぶつけたらしい。」
「うわあ、それも後味悪いですね。」
もと子は苦々しい顔をした。
「そんな事ないよ。バチが当たったんよ。アイツ、車椅子の生活になったんだけど、子供も作れなくなってね。それで不倫相手の子供が唯一の子供になったもんだから、これを機に親子3人水入らずになってくださいって言ってやってん。アタシがDVで病院に運ばれたのもあって無事離婚できてん。」
リカコは美しいロングヘアを耳にかけて清々した顔で説明した。
「リカコさん的には良かったってことか。」
「うん、父が亡くなって相続した会社の株を全部兄に買ってもらったし、アタシ、東京に行くねん。」
「思い切ったんやな。」
「前は実家からの援助がないと、このアトリエも維持できなかったから踏み出せなかってんけど、お金もできたしね。事情を聞いた東京の知り合いがウチで働いてみないかって声かけてくれてね。」
「良かった!リカコさんも新たに人生の一歩を踏み出すんですね。」
もと子はリカコの笑顔が以前と違って気力に満ちているのを感じた。
そしてふとリカコの手元にステキなリングがはめられているのに気づいた。
「リカコさん、その指輪、素敵ですね。その青い石、なんですか?」
「ウフ、これはサファイア。強い意志で物事を成功させる力があるって言われてるんよ。これから東京で頑張るのに自分のために作ってん。もう自分をあざむかないって自分への約束にね。」
「リカコさんらしい。東京で頑張ってな。俺ら応援してるで。」
「そうだ、エンゲージって約束の意味もありますよね?リカコさんのリングもエンゲージリングですね。」
「あらホント。そうやね。」
三人は顔を見合わせて笑った。
リュウともと子を駅まで見送ったリカコはアトリエに戻った。アトリエに来るのも今日が最後。ドアを閉めたリカコは空を仰ぎ見た。太陽の光がまぶしい。左手の薬指にしたサファイアのリングをかざし、リカコは一歩踏み出した。
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