第33話 2つのエンゲージリング②

 リカコとの約束の日、何故かリュウはもと子と一緒にリカコのアトリエに行こうとしなかった。

「箱も包装ももとちゃんの好みにしてほしいからな、俺は駅前のコーヒースタンドでもとちゃんの帰りを待ってるわ。久しぶり、外で飯食おう。」

「そうですか?」

小首をかしげながらもと子は一人、リカコのアトリエを訪れることにした。先日のリカコの様子を思い出し、もと子は手土産に生クリームたっぷりのショートケーキを買った。

リカコさん、これ食べて元気だしてほしいな。

もと子は足取りも軽くアトリエへの道を歩いて行った。


 もと子とリュウがもうすぐ来る。リカコはリングとリングを入れる紺色の箱とグレーの箱、数種類の包装紙とリボンをテーブルに並べて用意していた。

もと子がトイレに立ったすきに先日のことをリュウに謝りたい。

もうリュウとどうにかなりたいとは思わないけど嫌われるのだけはイヤ。

そのためにも、もと子のリングはできるだけステキにしたい。

リカコはそう思って心を込めて用意をした。


ガチャリ。

用意ができたところでリカコの後ろ、店のドアが開いた。

「いらっしゃ…」

リカコは振り向きざまに声をかけようとして固まった。



ドアを後ろ手に閉めた和也が立っていた。

「リカコのくせに離婚したいだと?この俺を叩き出せると思ってんのか?」

和也の目は暗い光をたたえている。

「アナタに用はないわ。もうすぐお客さんが来るんだから、帰ってよ!」

「バカだな。店はcloseの札にしてきた。誰も来ない、俺とお前の二人きりだよ。」

リカコは後ずさりした。工房へ逃げようとしたところで長い髪を後ろから和也に掴まれた。

「キャア!やめて!」

「逃がすか!」

リカコを引きずり倒そうとした。


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